定義が曖昧になった「家族」への向き合い方とは?

 

シチュエーションによって姿かたちを変え、その定義がどんどん曖昧になっていく家族像。でも山口さんは、「芯の部分に、変わらぬなにかを見出したい」と願うようになります。

 

「家族には普遍的な価値があるべきだと感じる。おそらくこれは、私自身の単なる願望なのだ。そしてこの願いは、家族を見たいように見るというバイアスにつながり、客観的な研究には不要な妄執を生み出す。それでも私は、あきらめることができない。葛藤と願望を抱えながら。『家族』をバラバラにしてしまいたいという衝動と、『家族』はこうあってほしいという郷愁と闘いながら。私は今日も問い続ける」

当初は「聖家族への挑戦状」を叩きつけ、家族に対する固定概念を壊すつもりだった山口さんはジレンマに直面します。そんな中、彼女は自分が「家族」に対して取るべきスタンスを見つけ出しました。

「これからの時代、私たちがすべきことは“違い”をあぶりだすことじゃなくて、“同じ”を探しにいくことなんじゃないか。家族のあり方が変わってもなお、昔と変わらない普遍的ななにかをその真ん中のところに見つけにいくことじゃないかと、私は思うようになった。『家族の普遍』を探す私の旅はまだはじまったばかり」

いくら追求しても、家族というものはなかなか芯の部分を見せてくれません。まだまだ探求は続くと腹を括った山口さんでしたが、ひとつだけ確かな手応えを得たようです。

「ひとつだけ言えるのは、そこがゴールだと確信できる究極の『ふつうの家族』なんて、昔も今もどこにもいなかったということだろう」

著者プロフィール
山口真由さん:
信州大学特任教授・ニューヨーク州弁護士。1983年、北海道に生まれる。東京大学を「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け卒業後、財務省に入省し主税局に配属。2008年に財務省を退官し、その後、15年まで弁護士として主に企業法務を担当する。同年、ハーバード・ロースクール(LL.M.)に留学し、16年に修了。17年、ニューヨーク州弁護士登録。帰国後は東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に進み、日米の「家族法」を研究。20年、博士課程修了。現在は、信州大学特任教授。主な著書に『いいエリート、わるいエリート』(新潮新書)、『高学歴エリート女はダメですか』(幻冬舎)などがある。

 

『「ふつうの家族」にさようなら』
著者:山口真由 KADOKAWA 1650円(税込)

一人親家庭、代理出産、事実婚、同性パートナーシップ証明制度……あり方が多様化する一方、いまだに「法律婚の夫婦+実子」がスタンダードとされる日本の家族像に一石を投じるエッセイ。日本社会の「ふつう」から外れた存在だと自認する著者が、「親子」「結婚」「家族」「老後」「国境」という5つの観点から「ふつう」幻想を斬り、家族というものの本質に追ります。



構成/さくま健太