マット・デイモンも苦言「なくなっても誰も悲しまない」

NBCは、来年のグローブ授賞式の中止を決定。改善されれば2023年には復活する可能性もあるという。photo /Joe Seer / Shutterstock.com

プロ意識の低さとしては、クレクレ体質も挙げられます。今年のグローブに評価が低い「エミリー、パリに行く」が2部門で入ったのには、Netflixが彼らをパリに招待し、1泊1400ドルもする高級ホテルで接待したからだと指摘されています。また、ワーナーメディアも、ボイコットを表明する手紙で、過去にHFPAの会員からのおねだりがあったと書いています。

 

そしてお金のこと。NBCがグローブの放映料として毎年HFPAと制作会社に合わせて6,000万ドルを払うため、彼らにはたっぷりお金があります。そのお金を目立つところに寄付してはイメージアップをはかる一方、自分たちにもお金が回ってくるよう、適当な名前の委員会をいくつも作っては、その名目で給料を払っているのです。会員の中には多数の委員会をかけもちして信じられないほどの高額を得ている人もいます。役員やプレジデント(これらの役職は会員から選ばれる)などの報酬も高額な上、一度プレジデントを務めたら、任期が終わった後も毎月1000ドルの報酬が出ます(ちなみにアカデミーのプレジデントは無給です)。税金を払っていない非営利団体として違法ギリギリの行為と見る専門家もいますし、仮に違法ではないとしても倫理的に問題があります。

これらのことすべてが改革されないかぎり、健全な団体が平等に投票する、意義のある賞にはなりません。しかし、彼らにその改革ができるのでしょうか? 口では「やる」と言っているものの、先に述べたように、彼らの大部分は高齢者で、もはや原稿料で稼いでいるのではなく、団体からもらう“給料”に頼っています。彼らが発表する改革案にも、お金のことはまるで触れられていません。その改革案はまた、いろいろ逃げ道を作ろうとしているのが見え見えです。

NBCは、来年のグローブ授賞式は中止を決めつつ、彼らがきちんと改革をしたら2023年にはまた復活するかもしれないと、道は残しています。しかし、彼らが変わるだろうと期待する人は多くありません。マット・デイモンも「なくなっても誰も悲しまないよ」と言いました。たしかに、汚れた賞は、そろそろなくなって良い時期です。


猿渡由紀
L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「週刊SPA!」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイ、ニューズウィーク日本版などのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。6月10日、著書「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)が発売。

構成/榎本明日香


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