スタイリングディレクター大草直子著『飽きる勇気〜好きな2割にフォーカスする生き方』より、「変化を恐れず自分軸で生きるアイデア」を一日ひとつずつご紹介します。

 

大学卒業後、「ヴァンテーヌ」編集部に入り、中南米へ遊学した話は、第1章で触れましたが、帰国後の私は27歳。そこから、フリーランスとして働き始めることになりました。
お話しした通りに、何も計画を立てないノープランな遊学だったため、当然、帰国後の仕事はゼロです。最初は、名刺には肩書を書かず、頂けるお仕事は何でも引き受けていました。ビジネス誌の原稿や、商品リリースの原稿も書きましたし、もちろん、雑誌の仕事では、編集者、ライター、スタイリストのひとり3役で、どんな企画もやっていました。

 

そしてプライベートでは、27歳で婚約していた男性と結婚し、直後に長女を妊娠しました。まだ、フリーランスで働き始めて間もない頃です。
「ヴァンテーヌ」編集部に入ったときには、卓越したセンスの先輩ばかり。毎日、彼女たちの着こなしを見るたびに「なんてきれいな色使いだろう」と惚れ惚れするのと同時に、「センスの塊のような彼女たちには、私は到底及ばない、だったら私はセンスを言葉で補うように努力しよう」――そんなふうに考えていました。
通常、女性誌では編集者、スタイリスト、ライターと、その道のプロによる分業で作業をしています。ただし、雑誌は編集長のもの。それぞれのステップで、編集長によるチェックが必ず入ります。
フリーランスで働くなかで、私が常に緊張感を持って臨んでいたのが、撮影前のコーディネイトチェックでした。スタイリストが用意した洋服を、編集長にプレゼンテーションするのです。
たとえば、〝11月に買うアウター〟がテーマだったとしたら、――秋を楽しみたい時期だから、色はベージュやグレーなどの軽やかな色。素材は、寒さにまだ慣れない体や気持ちが、羽織るだけでフワッとほぐれるような柔らかな肌触りの上質なウールやボア。プライスは、寒さが厳しくなったときに追加で購入するアウターのことも考えて、4万円以内――という感じに。スタイリストとしての自分が借りてきた洋服たちひとつひとつに、企画テーマに添うよう理由づけをしていくのです。
本来であれば、スタイリストによる説明を、エディターやライターが要約してプレゼンテーションし、互いに足りない部分を補い合いながらコーディネイトチェックを進めていくのですが、私はフリーになってからも、スタイリスト、ライターを兼任していたので、当然ひとり。
万が一、ダメ出しを受けたり、提案をひっくり返されるようなことがあれば、本当に後がありません! アシスタントはいないし、撮影は明日、新しい洋服を集める時間なんて当然なし! 借りられるものだってこれ以上のものはありません! ――とにかく毎回、必死で編集長へプレゼンテーションしていました。テーマの意味や意義を深く掘り下げ、「これが可愛いからです」なんて決して言わないように。最初の「読み手」である編集長に向けて原稿を書くように、その服を選んだ理由、素材や色を組み合わせるテクニックを説明しました。当時は、今日のチェックを乗り切ろうと必死でしたが、こうしたひとつひとつの積み重ねが、「キャリア」につながることは、いまになって保証できます。

また、30歳で離婚を経験し、その後、いまの夫と出会い再婚。長男、次女の出産とプライベートは目まぐるしく変化していました。
さまざまな雑誌に携わらせて頂きましたが、なかでも、10年にわたってお仕事を頂いた「Grazia(グラツィア)」は、忘れられません。30代後半のハイエンドな女性向けの雑誌にもかかわらず、まだ28歳の私をスタイリストとして起用してくださったのは、本当に感謝しかありません。
さらに、「グラツィア」では、私自身の日常をブログで発信するという機会を頂きました。

洗濯物を3日間溜めてませんか? 私も洗濯物の山から靴下を履いて出かけました。

幼稚園にいくのを嫌がる子供をなだめて仕事に出かけて、涙が出てしまいました……。


――そんな、仕事と3人の子育ての日常を綴ることで、読者の方々との距離がぐんと縮まりました。
このころから、共感してくれる方々が目に見えて増え、仕事の手応えを感じましたし、「書いて伝える」ことへの情熱が、どんどん熟成していきました。
思い出せないほど毎日が必死だった、20代後半〜30代後半までのこの時期は、3つのキャリアステージのなかで、まさに第1ステージです。
人によっては、第1ステージが20代半ばで終了したり、40代の初めまでという方もいるかもしれません。年齢ではなく、大切なのは、虫の目のように、目の前のことに集中すること。すると、自分の得意なことや、周りから認めてもらえることが何であるのか――その答えが、ぼんやりと輪郭を帯びて見えてくる、そう思います。


出典:大草直子著『飽きる勇気〜好きな2割にフォーカスする生き方』(講談社刊)
取材・文/畑中美香


覚えておきたい!
大草直子の「自分軸で生きる方法」

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