スタイリングディレクター大草直子著『飽きる勇気〜好きな2割にフォーカスする生き方』より、「変化を恐れず自分軸で生きるアイデア」を一日ひとつずつご紹介します。

 

自分にとっての得意なことがなんとなく見えてきたら、第2ステージは、積み上げてきた経験や知識を、社会にお返ししていく時期です。
皆さんに喜んでもらえること、社会に貢献できること、あとに続く後輩たちのためになること――そんな視点が必要だと思っています。  

 

そのきっかけになったのが、「DRESS(ドレス)」でのファッションディレクターとしてのポジションでした。
フリーランスとはいえ、全体のコンセプトを把握する立場だったので、新しい視点で雑誌作りに携わることができました。それまでは、与えられた企画のなかで最大限に考え、努力し、伝える、という仕事内容。一方、ファッションディレクターは、雑誌全体のファッション企画を見る立場です。加えて、チームを鼓舞し、同じ情熱を持って進むチームを作るという役割も担っています。
各チームのモデルや提案するコーディネイトや洋服が重ならないよう、俯瞰で見て、スタッフひとりひとりの得意分野やその時の状況を確認する経験は、確実にこれまでとは違うステージへと連れていってくれました。  

そして、次に声をかけて頂いたのが、講談社が新規に立ち上げようとしていたミドルエイジ女性向けのウェブマガジン「ミモレ」でした。
どの雑誌も、創刊する際には、詳細なペルソナ(読者像)を掲げますが、そのころの私は、そんなペルソナを立てないメディア作りがしたかった。どこにも帰属できない――と寂しい思いをしている読者の方と並走したかったのです。働いていても、いなくても。結婚していても、していなくても。子供がいても、いなくても。都市や地方、国内や海外、どこに住んでいても構わない。そんなコンセプト作りからやらせて頂けるのなら、と「ミモレ」というメディア名も考え、紙の雑誌の補完ではないウェブのみの媒体にすることを決め、編集長としての仕事をお受けすることにしました。
「ミモレ」がスタートしたとき、私は42歳。
40歳は不惑の年なんて言われますが、膝と足首の間のミモレ丈のように、実は中途半端な世代だと、私自身感じていました。いわゆる中年にはまだなっていないと感じているけれど、30代の時とは明らかに違ってきているよね、みたいな……。
ただでさえ気持ちも体調も「揺れる」時期に、読んでくださる方が疎外感を感じたりすることなく、楽しんでくれる場所にしたかった。隣の人と自分を比べることなんかせず、いつ読んでもいいし、気に入ったコンテンツだけ読んでくれればいい。そのために、これまでスタイリストとして蓄えてきた、ファッションや美容に関するアイディアをお届けしたかったのです。そういう意味でも間口の広い、オンラインというメディアは、とても親和性がありましたし、たくさんの方が「ミモレ」を支持してくださるようになりました。
実際に、「ミモレ」がスタートして、真っ先に解き放たれたのは私自身でした。  

ただ、「ミモレ」の編集長は、当初からサイトオープン後3年で辞めると決めていました。というのも、私に求められていたことは、メディアとしての「ミモレ」のメッセージ性、独自性を明確にし、土台を作るところまでだ、と思っていたからです。これまでの経験や、スキル、適性のようなものを考えてみても、メディアを大きく成長させていくことは私の役割ではなく、もっと得意な人がいるはず、と。スタートアップから、メディアとして成長・拡大させるすべての課程をやれるとは元々考えていませんでしたし、だからこそメディアの基礎を固めるスタートアップに、深く狭く集中しました。年齢を重ねる美しさと豊かさを読者と共有し、コメント欄やイベントなどでも交流して、その結果、「ミモレ」をメディアを超えた「居場所」にすることができた。土台ができたら、その後は、メディアを成長させる人が活躍できる立ち位置として、編集長というタイトルはあるべきだ、と思いました。もちろん、私自身の「飽きてしまいたくない」という気持ちも、ゼロではありませんでしたが……。
当然、周りにも3年で辞めることは公言していましたし(冗談だと思われていたようですが)、実際に3年で編集長からは退きました。

現在は、「アマーク」というセルフメディアを運営する一方で、ブランディングのお手伝いや、コンサルティングなどを通じて、ブランドやお洋服と、女性たちの「楽しくおしゃれをしたい」「幸せになりたい」という希望を、マッチングさせることが、私の役目かなと思っています。
とはいえ、まだまだ、キャリアメイクの第2ステージは道半ばです。手探りながらも、こうして本を出させていただく機会などを通して、私自身の経験や知識を皆さんにシェアしたいと考えているところです。
 


出典:大草直子著『飽きる勇気〜好きな2割にフォーカスする生き方』(講談社刊)
取材・文/畑中美香


覚えておきたい!
大草直子の「自分軸で生きる方法」

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