母からビンタされたこともあります

有澤さんにとって、お母さんは「めちゃくちゃ偉大」。感謝の気持ちでいっぱいです。

「でもそう言えるのは自分も大人になったからで。実家にいたときはよく叱られていましたよ。叱られる理由ですか? えっと……靴下を裏返しのまま置きっぱなしにしたり、お弁当箱を出さなかったり(笑)」

 

中学生の頃は、反抗期まっさかり。遅くまで外出したり、学校をサボったり、本人曰く「道を踏み外しかけた」時期もありました。

「中2から携帯を持ったんですけど、もともと母は僕が携帯を持つのに反対で。持つのを認める代わりに、母からの電話には絶対出るって約束だったんですよ。だけど、僕は母からの電話を無視したまま、ずっと遊んでて。それで大ゲンカになってビンタされたこともありました」

今ならどれだけ母が心配していたのか痛いほどよくわかる。だけど、あの頃は視野も狭く、母を疎んでばかりいた。ようやく自分が愛されていることに気づいたのは、弟の存在がきっかけでした。

「僕と同じように、弟も道を踏み外しかけた時期があって。そのときの母の顔を見て、『俺もこんなことしてたんだ、マジか……』って切なくなっちゃったんですよ。母は自分の自由な時間も削って僕らに向き合ってくれて。毎日働いて疲れているのに、朝早くから弁当をつくってくれた。それまで当たり前すぎてなんとも思っていなかったですけど、そうじゃないんだ、これは全部僕たちのためにやってくれているんだと気づいたときに、一気に目が覚めました」

迷惑をかけた時期があったからこそ、今では「幸せになってくれってめちゃくちゃ思いますね」と母親愛を隠さない有澤さん。近年の飛躍の陰には、親孝行の気持ちもありました。

「母がミュージカル好きなんですよ。もともと吹奏楽部だったのもあって、『ウエスト・サイド・ストーリー』が決まったときとかすごく喜んでくれたし、『17 AGAIN』も楽しんでくれて。ミュージカルを頑張りたい理由のひとつに、母に喜んでもらいたいというのもありますね」

母と子は、多くの人にとって自己投影しやすいテーマ。だからこそ、「多くの人に観てほしい」と意気込みます。


「張りつめた空気感が走る中、最後にちょっと光が射す瞬間が訪れる。そんな舞台です。堅苦しい作品ではないので、あまり構えず楽しんでいただきたいですし、きっと最後は何かしら救われた気持ちになってもらえるんじゃないかなと思います」

初めての2人芝居。初めての会話劇。たくさんの初めてを乗り越えたとき、有澤さんの前にはきっとまた新しい地平が広がっているはずです。

 

有澤樟太郎 Shotaro Arisawa
1995年9月28日生まれ。兵庫県出身。2015年、俳優デビュー。主な出演作にミュージカル『刀剣乱舞』、ミュージカル『17 AGAIN』、ドラマ『テレビ演劇 サクセス荘』、ドラマ『田園ボーイズ』など。10月よりミュージカル『GREASE』が上演予定。また、12月31日に『映画演劇 サクセス荘』の公開が控えている。
Twitter:@shotaro_arsw

<公演情報>
舞台『息子の証明』
公演期間:2021年8月25日(水)~ 8月29日(日)
※8月29日公演はライブ配信あり


会場:博品館劇場
脚色・演出:高羽 彩
脚本:下 亜友美
出演:有澤樟太郎 山下容莉枝
企画・プロデュース:東映


撮影/中垣美沙
取材・文/横川良明
構成/山崎 恵