楽しい仕事の見つけ方


――仲山さんは、2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を一人で立ち上げられて、自身が「仕事が楽しい」と思えたと同時に、関わっている出店者からも「仕事が楽しくなった」と言ってもらえることが多くなったそうですね。

仲山:楽天出店者さんは全国各地の中小企業が多く、もともと実店舗をやっていて、「お店の前の人通りがどんどん減って、商売が右肩下がりになっている」ということで、ネットショップに活路を求めて始めたパターンが多いです。

対照的に、小売をしたことのないメーカーさんもいます。今までバイヤーさんとしかやり取りがなかったパターンです。

そうした方々へ、ネットショップを通じて全国のお客さんから直接「ありがとう」の声が届くようになります。そうすると、仕事が楽しくなるのです。その結果、ぼくらにも「おかげで仕事が楽しくなったよ。ありがとう」の声が届くようになります。だから、仕事が楽しいんです。

――仲山さんは、どうやって自分に合った、楽しい仕事を見つけ出したのでしょうか? 

仲山:最初に大きな会社に入ったのですが、全体像も現場もよくわからないまま指示されたことをやる働き方にモヤモヤしていました。つまり、「イヌの皮をかぶったネコ」として違和感を感じていたわけです。

「お客さんに“ありがとう”と言われるような仕事を、もっと思いっきりやりたい」と話していたら、働き方の価値観が似ている友人が誘ってくれたのが縁で、20名のベンチャー企業に転職することになりました。それが今の楽天です。

なので、「どうやって見つけたか」という問いに答えるとしたら、自分の価値観を理解することと、違和感は大切にすることでしょうか。

ただ、「自分に合った、楽しい仕事を見つける」というよりは、「やるべき仕事を自分好みのやり方にチューニングしていく」というのが、実際の感覚に近いです。ぼくの場合は「仕事を遊ぶ」感じが好みです。

 


「夢中で遊ぶ工夫ができる」のと「夢中にさせられているだけ」の違い


――仕事を遊ぶコツって、どういうことですか?

仲山:誰でも子どもの頃、遊びに夢中になっていて、いつの間にかまわりが真っ暗になっていた経験ってありますよね。それが、自分で考えた遊びで夢中になったのか、人から与えられた遊びに夢中にさせられていたかで、大きな違いがあります。

たとえば、ゲームって、ゲームクリエイターの人たちがプレイヤーをいかに夢中にさせられるかすごく工夫していますよね。そこに受け身で乗っかって夢中にさせられていた体験しかないと、「遊び=サービスを受ける」という感覚になってしまっているかもしれません。

夢中になるにはどうすればよいかを考えるヒントとして「フロー理論」というのがあります。能力が低くて挑戦の難易度が高いと、人は「不安」になります。逆に能力が高いのに挑戦しないと「退屈」になる。挑戦と能力のバランスが取れているときに「夢中」になりやすい、という考え方です。
 

[フロー理論の図/能力と挑戦のバランスが大事]

 

子どもって、放っておくと「自分が退屈じゃない状態」になるために、自分で工夫して遊び始めるじゃないですか。ぼくの場合、仕事もそれと同じ感覚です。同じことをずっと繰り返していると自分もお客さんも退屈になるので、新しい企画を考えて、「こんな遊びを考えたのですが、一緒にいかがでしょう?」と呼びかけて、集まってくれた人で楽しむ。みんなが上達して、簡単にできるようになったらまた退屈になるので、ルールを少し変えるなどして、また夢中で遊べるように工夫する。その繰り返しです。

――自分が楽しむためには、まずは人を楽しませることが大事ということですね。仲山さんにとって、将来のビジョンなどはあるのでしょうか?

仲山:基本的に、自分で目標を立てたりはしない「成り行きまかせ」タイプなのですが、公園の管理人のおじさんみたいになりたいです(笑)。自分が提供した場所で、集まった人たちが「遊び」を編み出して勝手に楽しみ始める。そうやって楽しそうにしている人を、遠目から眺めてニヤニヤする仕事です。たまにウロウロしながら子どもにちょっと話しかけて、「あのおじさん、まあまあいいこと言うよね」と思われるような、そういう人になりたいです(笑)。

――自分は参加しなくていいのですか?

仲山:はい。遊んでいる人たちを観察しながら、「最近の遊びのトレンドはこうだな」とか「遊びの編み出し方のコツがわかった」とかって気づいたことを発信して、それを見た人がまた面白がってくれて。そういうのがいいです。

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5年前に、「組織のネコ」としての働き方がわかっていれば、私は会社員を続けていたかもしれません。いま、当時の私と同じ悩みを抱える友人がふたりいます。そのふたりには、この本を送りました。すると、「転職活動は続けるけれども、自分の働き方を考えてみる」という返事が。筆者はすでに組織から離れてしまいましたが、『組織のネコ』は彼女たちに会社での在り方を考え直すきっかけを与えてくれることとなりました。

『「組織のネコ」という働き方
「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』

著者:仲山進也
定価:1760円(税込)

翔泳社