「なんでもどうぞ」
「私たち、付き合ってる、の?」
「えぇ⁉ それ、本気で聞いてる⁉」
ギヨームはのけぞって、むせるほど笑い出した。
私はムッとしてその背中を叩いたものの、つられて一緒に笑ってしまう。
――やっぱり私、この人のこと大好きだなぁ。
「質問の答えは〈愛莉は映画に情熱を燃やし、パリまで学びに来て、僕というナイスガイに出会い、運命の恋に落ち、今現在付き合っている〉。OK?」
「OK――全部、繋がってるんだよね」
ギヨームの答えを反芻して、蘇る言葉があった。
「昔、ある人が『映画に偶然はない』って言ってたの。でも考えてみたら、映画だけじゃない。現実だってそうなんだよね」
目に映る全て、体験する全て、偶然のようで意味がある。
元カレに振られて自暴自棄になり、せめて映画への本気をわからせてやりたくて、当てつけのようにパリの大学院を受験してしまった感がなくもない。彼を見返すという闘志がなければあれほど一心不乱に勉強できなかったし、渡仏なんて大それた野望も抱かなかった。
――おかげで、ギヨームと会えたんだ。
「……テーム」
「なに?」
「さてね」
シラを切るギヨームを、もう一度ぽこんと叩き、再び踊り出す。
これからも苛々ヤキモキして、くだらない質問をせずにはいられないんだろう。言葉では通じ合えないこともたくさんあるに違いない。
でも……
――パリだから、全部うまくいく、とか?
そんなに簡単じゃない。
簡単じゃないけど、何度躓いても、この人ならガハハと盛大に笑い飛ばしてくれる気がする。
<新刊紹介>
『燃える息』
パリュスあや子 ¥1705(税込)
彼は私を、彼女は僕を、止められないーー
傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)
依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)
現代人の約七割が、依存症!?
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!
撮影・文/パリュスあや子
第1回「私たち、付き合ってるのかな?」>>
第2回「カワイソウなガイコク人を助けてくれる友達が欲しい」>>
第3回「したあとは、煙草、吸いたいんじゃない?」>>
第4回「「パリに何しにきた? 恋人探しか?」」>>
第5回「私は踊り方なんて知らない」>>
第6回「「外国人向けおしゃべりモード」」>>
第7回「女友達を泊めるって? 男女のルームシェアも珍しくないパリの友達と恋人の境界線」>>
第8回「パリに来て、人生で初めて、大きな声を上げた夕暮れ」>>
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