フランスと日本。「妊婦事情」のちがい


「私も出生前診断、受けるつもり。血清マーカーテストできる病院、探してある」

落ち着いた口調で語る久実子にドキッとする。つまり――?

「蘭も知っての通り、長いこと望んでようやく授かった子供でしょ。検査結果がどうであれ、家族に迎えようねって夫とは話してる。でも心の準備も、実際に受け入れる準備も、やっぱり違ってくるから」

「……すごいなぁ」

しみじみと、ため息交じりに呟いてしまう。きれいごとを並べるのは容易いが、現実はそうもいかない。なのに胸を張れる久実子が眩しすぎる。

「だけど、考え方は人それぞれだよ。事情も違うし。まして蘭は外国での子育てってだけで大変なんだからさ。悩んで出した結論がなんであれ、責める人なんていないよ」

それにまだ結果待ちなんでしょ、とわざと軽い調子で言ってくれ、ほろりとする。同時に、こういう優しい言葉を期待していた自分に、苦いものも感じていた。

「近所ですぐ検査できるなんて羨ましいな。しかも全部無料なんて。日本では血清マーカーは一万〜三万。NIPTは二十万くらいするんだよ」

あまりの額に仰天し、それからしばらくはどんな検査をしたかなど、お互いの「妊婦状況」を確認し合った。

やはり日本は医師が懇切丁寧にきめ細やかな対応をしてくれるようで羨ましくなるが、一方でフランスでは一般的な検査がそこまで根付いていなかったりする。

「毎月トキソプラズマの血液検査してるよ。私もそうだけど、日本人は抗体ない人多いみたい。予防策を調べたら、ヨーロッパ、特にフランスの旅行を避けるってあってウケた」

「あはは、フランスはパテとかよく食べるからかなぁ? チーズも有名だけど、カマンベールみたいなナチュラルチーズはリステリア菌の心配もあるね」

 

「そう、生野菜も注意しろって言われてて。こっちでの食事の楽しみ半減以下。おまけにリュカが神経質になっちゃって、あれこれ口出しするんだよね」

「いいじゃない! 身体が資本なんだから。蘭、ストレス溜まると暴飲暴食しがちだし、リュカさんが付いてくれてると思うと安心だぁ」

 

まなじりを下げる久実子に苦笑する。さすが長い付き合いだけあって、私をよくわかっている。

「来月、戌の日のお参りに行くから蘭の分までしっかりお祈りしてくるね。日本から必要なものがあれば送るから、いつでも言って」

「ありがと。久実子が一緒だと思うと、出産までがんばれそうデス……」

「なに弱気なこと言って。普段の威勢はどこいったぁ!」

ぽやっとして見えるが、久実子は芯が強い。私は偉そうなことばかり言ってるわりに、小心者なのだ。

結局、こちらが大いに勇気づけられてビデオ通話を切った。これからも妊婦同士、励まし合っていこうと約束して。

霧が晴れたような心持ちで、早速久実子に教えてもらった妊娠初期におすすめというストレッチを試していると、リュカが仕事部屋から顔を出した。

「久実子さん、喜んでくれたでしょ?」

ふふんと笑われて、照れ隠しに大きく伸びをした。