“財産消滅”を防ぐに有効な手立て。専門家に相談を

 

そして、成年後見人は一時的なものではなく、本人の判断能力が回復するまでサポートを行います。回復が難しければ、本人が亡くなるまで関わり続けてくれます。この意義はとても大きいのではないでしょうか。事情が分かる人がずっとサポートを続け、財産管理はもちろん本人の生活を組み立てることに寄与するのです。

筆者も、これまで独り身の方の成年後見人を数多く担ってきました。旦那さんが亡くなった上に寝たきりとなった方。マンションでの一人暮らし生活から施設入所が必要となった方、若くして精神障がいを抱えてしまった方。など、最初はどれも財産が消滅状態となっていました。本人に関与する人も少なく、社会的に孤立した状態でした。

しかし、本人の成年後見人に選任されてからは、銀行口座の管理を代行し生活に必要な各種支払いを行うことが可能となりました。また、施設入所に伴い、自宅の売却を行うこともありました。様々な課題がその都度出てきましたが、成年後見制度を利用したからこそ解決できたと感じています。

世間一般が言うように安易な利用は避けるべきです。しかし、然るべきときは成年後見制度の利用を躊躇する必要はないと思います。利用する際は、後見業務に詳しい専門家に相談しながら進めることが何より望ましいです。

 


作者プロフィール
岡 信太郎(おか・しんたろう)さん

司法書士。司法書士のぞみ総合事務所代表。1983年生まれ。北九州市出身。関西学院大学法学部卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で高齢化が最も進んでいる北九州市で、相続・遺言・後見業務を多数扱う。介護施設などの顧問を務め、連日幅広い層から老後の法的サポートに関する相談を受けている。著書に『子どもなくても老後安心読本 相続、遺言、後見、葬式…』(朝日新書)、『済ませておきたい死後の手続き』(角川新書)、『改正のポイントからオンライン申請手続きまで 図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』(日本実業出版社)、『坂本龍馬志の貫き方』(カンゼン)。監修本に『新版 身内が亡くなったあとの「手続」と「相続」』(三笠書房)がある。

『財産消滅:老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』
著者:岡 信太郎 ポプラ社 979円(税込)

本人の意思確認ができない「認知症」は、家族の介護の負担だけでなく「財産」にも影響を及ぼします。司法書士の著者の元には、認知症患者の親族から「お金にまつわるトラブル」の相談が後を経ちません。5年後には65歳以上の5人にひとりが認知症を発症すると言われる日本で、財産を守るために今からすべきこととは? 数多くのトラブルを解決してきた経験豊富な著者が、その解決法を明かします。財産凍結を回避するための鍵、「成年後見人制度」のメリット・デメリットについても詳しく学べる一冊。



構成/金澤英恵