時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

虫好きで知られる解剖学者の養老孟司さんと、先日とあるところでご一緒しました。ご縁を頂いてから、もう20年近くになります。先生に会うと嬉しくて、ついいろんなことを尋ねてしまうので相当ご迷惑だと思うけど、いつも伺いたいことがいっぱい。今回も、久々の再会を喜んだのでした。

 

その日の会合はメタバースがテーマでした。メタバース、最近よく聞きますよね。仮想空間で、お買い物、スポーツ、イベント開催から住宅建設までなんでもできてしまう。人はアバターで自由に動き回って、新しい自分を生きることができる、と。しかもそれはごっこ遊びではなく実生活の場として機能し、もちろんお金だって動く。これまでも仮想空間でのゲームなどは既に存在していましたが、それが今後は大きな市場として動き出すと期待されているようです。あのFacebookも社名をMetaに変え、メタバースでのビジネスに主軸を移す姿勢を示しました。日本でも企業が続々と参入し始めています。

 


でもなぜそんな会合に、養老さんが? だって、養老さんはかねて「頭の中から出てこい」と言い続けている人。脳みそという牢獄から出られない私たちは、どうしても頭でっかちになりがち。養老さんは「自分探しより、周りをよく見なさい」「都市と自然を行き来して、五感を使って現実世界と出逢いなさい」と言い続けています。メタバースなどの仮想空間は、そんな養老さんの提言の対極にある、究極の脳内世界ではないですか。でも先生、メタバースには期待もできるというのです。