上司に報告したら、飛ばされるかもしれない


大物議員を撃退し、先輩記者にセクハラを報告した佐藤さんも、地方支局勤務の新人記者時代の頃には、消防署の職員から受けたセクハラを報告できなかったのだとか。会社の先輩や上司にセクハラの事実を告げられなかった背景について、次のように語っています。

「入社早々トラブルを起こせば、『女はやっぱり面倒くさい』とか『なんでそんなトラブルもうまく処理できないのか』と思われ、人事異動にも影響しかねないと考えたからだ。セクハラ経験のある人にはわかってもらえると思うが、報告をすること自体が残念ながら大きなハードルだった。ただし、同世代で他の支局で働いていた女性記者だけには電話で相談した。彼女は『そんなこと、絶対に上司に言っちゃダメだよ。(人事で)飛ばされるだけだよ』と言った」

 

忠告した女性記者も、決して他人事で言っているわけではありませんでした。警察官からのセクハラを受けた経験があったからです。ですが、その女性記者も抗議はせず、誰にも言いませんでした。当時は相手の弱みを握り、こっそり脅しあげてネタを引っぱるくらいしか、セクハラの代償を払わせるすべがなかったのです。

 

その女性記者は「たくましい」例でもなんでもなく、佐藤さんが先ほど述べたように「なぜその程度のことを処理できずに大問題にするのか」「こんな奴はきっと仕事もできないだろう」と、セクハラを問題視した女性側が責任を取らされかねないという現実がありました。

時にはスキャンダルとして週刊誌などに報じられるケースもあったものの、それはほんの氷山の一角。多くのケースは泣き寝入りするしかなかったのです。