ボクシングの練習では、小柄な女性の岸井さんと、大柄な男性の三宅さんがリング上で対することも。その時に起きたあること、そしてその後の会話には、二人の信頼関係、そしてケイコのキャラクターやこの作品の描くものがどうやってつくりあげられていったかが感じられます。

三宅:一緒にリングに上がってタッチマスという練習をしている時、この身長差、体重差だし、僕は映画に出ないですから、岸井さんの練習の為と思ってガードばかりしてたんですね。そうしたらラウンドが終わった瞬間に、岸井さんが「なぜ打って来ないんですか?」とすごくまっすぐな目で伝えてくれて。

 

岸井:「手加減しないでほしいなあ」と思いましたよね。やっぱり遠慮が先に立っちゃうんだろうなって。

 

三宅:スピードに関してはなるべくちゃんとやろうと思いましたが、難しいですよね。タッチマスなので、パワーは本気では当然ありませんが、それでも、加減を間違えて吹っ飛ばすわけにはいかないので、恐る恐る、慎重になりました。

岸井:三宅さんもそうですが、トレーナーの松浦さんも「今、私が上手く見えるようにしてくれたな」とか。「今だったらフックいけるかな」「ボディーいけるかな」みたいな時に、わざと打たせてくれたり。

三宅:そうだよね。パンチを打って「ナイス」って言われても、ナイスかナイスじゃないかは、途中からもう自分たち自身でわかるわけで。

岸井:そういうのがわかる瞬間、やっぱすごく悔しくて。映画のためにやってるとは言え、本気でやりたかったので。

三宅:同じリングに立つ以上、本気でやることが相手に対する礼儀であり敬意。何事も本気でやることが大事なんだなあと。その瞬間は上手く言葉にできなかったんだけど、練習の後に「まっすぐに伝えてくれてありがとう、僕もこういう風に思って……」と伝えて。そういう1日1日の積み重ねが大事だったと思います。オファーを頂いた時は「自分に務まるだろうか」と不安だったんですよ。でも岸井さんは本当に信じ難いほど誠実に取り組んでくれたし、準備段階から最後まで、作品を引っ張っていってくれました。
 

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<映画紹介>
『ケイコ 目を澄ませて』

 

嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書きとめた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出すー。

監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
原案:小笠原恵子「負けないで!」(創出版)
脚本:三宅唱、酒井雅秋
配給:ハピネットファントム・スタジオ


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撮影/Minyoung An (STUDIO DAUN)
スタイリスト/Babymix
取材・文/渥美志保