思い思いに楽しめばいいのよ、が正解なのはわかっている。でも自意識が強すぎるあまり周囲から浮いていないかの方がどうしても気になってしまう。自分が他人にどう思われているかに過敏すぎるのだ、僕は。

 


だから、こんなことが起きる。

あれは確か『エソラ』のとき。耳をつんざく破裂音と共に、銀テープが空を舞った。ファンたちが一斉に手を伸ばす中、運良く僕は銀テープを手に入れることができた。うれしくて腕に巻きつける。アラフォーの男子は長いものを見つけると、大体腕に巻きたがるんだけど、あれは確実に『幽☆遊☆白書』の飛影のせいです。

ふと隣を見ると、隣も僕と同じソロ参戦の女性だった。しかし、残念ながら彼女は銀テを手にすることができず、見るからに気落ちしていた。銀テといえば、ライブに参戦した思い出の品。手ぶらで帰るよりは、銀テの1本でも持ち帰ることができた方が充実感も違う。その気持ちはよくわかる。よくわかるからこそ、ふと思った。だったら、僕のこの銀テをあげればいいのでは?

とはいえ、僕も、たった1本しかない自分の銀テをまるまる他人に与えられるほどマザーテレサではない。ただ幸いなことに、僕は常日頃から携帯用のミニハサミを鞄の中に突っ込んでいた。これで半分に切って相手に渡すぐらいなら、僕も損をするわけではないし、彼女も記念として持って帰れる。いいことづくめではないか。

そう思って、足元に置いた鞄からハサミを取り出そうとした。でもそこで僕の中でもう1人の僕が囁く。

見ず知らずの人にそこまでされるの怖くない……?