モラハラ夫誕生の理由


「あるとき、元夫に『開業資金を貸して』と言われました。開業の準備はそれなりに進んでいると思っていたので、一瞬ポカンとなりました。どうして資金がないのか? 銀行から借りられないのか? 一つ一つ聞こうとしましたが、いくつか質問を繰り返すと、彼はこれまで見たことない顔で逆上したんです」

聞けば、元ご主人が「開業する」と言っていたのはほとんど口ばかりで、自分の資金はゼロ、実績もなく事業計画もきちんと立てられていないため、当然ながら銀行の出資など受けられる状態ではありませんでした。それだけでなく、彼は消費者金融から借金もしていたのです。

すべてが明るみになったとき、美月さんはただ唖然となり、言葉が出なかったと言います。

「私が怒ったり悲しんだり問い詰めたりする暇もなく、彼は『家族なんだからこういう時は助け合うのが当然だろう。俺も美月には散々お金を使ったし、君の会社の金があるんだからそれで開業すれば問題ない』と一方的に言い張りました。

これは流石にない……と頭では分かっていたと思います。でももう結婚してしまったし、日々大きくなるお腹の中には彼の赤ちゃんがいる。これはもう、私がお金を出すしかないんだと思い、貸してしまいました」

長年美月さんを思い続け、お姫様扱いをしてくれた男性の突然の豹変……しかも妊娠中となれば、あまりの驚きで冷静な判断を下せなかったのも仕方がないでしょう。

そして美月さんは半ば強制的に、元ご主人にお金を貸すことになりました。いくら貸したのか? と思い切って伺ってみると、「大した額じゃないですけど、数千万円……」と小声で答えてくれました。

ちなみにこれまで贅沢三昧していたお金は、借金や夜間勤務のアルバイトで稼いだお金で、まさに自転車操業、元ご主人の家計は火の車だったようです。

 

「この時はまだ、お金さえ出して開業できれば、事態は好転すると思っていました。でも……お金を貸すって、本当に難しいですね。私からお金を得てなんとかクリニックは開業したものの、男としてのプライドが傷ついたみたいで。それ以来彼は、私を貶めるような態度や発言を日常的に繰り返すようになったんです」

妻から無理やり大金を借りておいて、プライドが傷ついた……? なんて身勝手な思考なのかとさらに驚きますが、借金を境に、夫婦関係はみるみる悪化したそうです。

「俺は医者で、世の中の役に立ってる、尊厳のある仕事をしている。でもお前の仕事は、所詮消費欲を煽るだけで社会貢献はしてない……など、口を開けば私を馬鹿にするようになりました。元夫は真っ当な仕事、私は俗な金儲け。だからお前が俺に出資するのは当然なんだ……とか。いわゆるモラハラですよね。

私は妊娠後期に入っていましたが、ストレスが酷くすでに離婚を考えて、弁護士に相談にも行っていました」

そんな状況でも時間は刻一刻と過ぎていき、美月さんはとうとう息子さんを出産。ご主人もこのときばかりは息子さんの誕生を喜び、家族で平和な時間を過ごせたそう。

 

このまま彼が変わってくれるのでは……と願ったそうですが、多くの夫婦がそうであるように、産後、元ご主人のモラハラは加速します。

ご主人はクリニックの経営を盾に育児家事を全くせず、さらに乳児のお世話で余裕のない美月さんに「院長である自分の妻業を怠るな」など、暴言や横柄な態度は増すばかりでした。

元ご主人は、おそらく当初は高嶺の花であった美月さんをどうにか振り向かせるために必死だったのでしょう。けれど年上で仕事もできる女性と肩を並べるため背伸びを続け、気づいた時にはキャパオーバー。

とはいえ、生活レベルを下げることも、妻に正直な心情と状況を打ち明けることもできず、結果的にモラハラ夫に変貌するという、いわば自分を守るための惨めな選択をしてしまったのだと思います。

来週公開の後半の記事では、美月さんがモラハラ夫と穏便に離婚し、力関係を逆転させた手腕、そしてシングルマザーの再婚活の秘訣などを存分に教えていただきます。


写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙
 

 

 

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