喪失しても、生活は続いていく。そこから生まれる大人のラブストーリーを見たかった


——超名曲をテーマにするのはプレッシャーも大きかったと思いますが、脚本に取りかかり始めてから物語の輪郭はすぐに見えてきたのでしょうか?

寒竹:まず、楽曲の歌詞をなぞるような物語にはしたくなかったし、“惚れた腫れた”で終わってしまう物語にもしたくなくて。「First Love」から「初恋」の間に起きた 20 年間のエポックを描くことも踏まえて、何週間も歌詞を眺めていたら、次第にドラマの大筋が見えてきました。宇多田さんが登場した時代に青春を過ごした少年と少女が、恋をして、失って、やがて親になり、辛い経験をしながらもちゃんと生活して行く。そんな物語を描きたいと思って、企画書とお手紙を宇多田さんに送ったら幸運にもOKをいただくことができました。

 

——「First Love」の歌詞の性質的にも、物語の主人公である野口也英と並木晴道に途中で別れが訪れるのは必然だったのでしょうか?

寒竹:やっぱり失わざるを得ないので、晴道が途中で亡くなってしまったのか? とか、いろんなパターンを考えました(笑)。詳しくは言えませんが、最終的には自分も見たかったような結末に辿り着きましたね。

 

——初恋の喪失感は誰もが経験すると思いますが、1970年前半~1980年代前半頃に生まれた人たちは“ロスジェネ世代”と呼ばれ、就職活動で挫折を味わった人も多いです。也英と晴道も10代の頃は夢を追いかけていましたが、紆余曲折を経て「こんなはずじゃなかった」人生を歩むことになりますよね。

寒竹:そこは重要なポイントでした。大きい喪失とか挫折に直面して、一人で泣く夜があっても、また朝は来てしまいます。腫れた目で朝ご飯を食べて仕事に向かい、元気なフリをして脈々と生活を続けなければいけない。そんな生活者たちを描くとどうしても辛気臭くなるのですが、でも、それが大人ですよね。

 

日本のラブストーリーって10代のキラキラした青春にフォーカスした作品が多いし、それも尊いものではありますが、私は30代半ばでこの脚本を書いていたので。それこそ人生って「思っていたのと違う」ことばかりだし、学生時代のように何でも話せる友達が毎日近くにいるわけでもないし、むしろ友達なんかどんどんいなくなっていくじゃないですか。みんな自分の仕事や家事や子育てで精一杯の年代だけど、それでも生活が続いていく。私としては、そこから生まれてくる大人のラブストーリーが見たかったんですよね。