何よりも“ファミリー”を大事にした夫


改めて日本の病院で検査を行った雪美さんご夫婦。しかし特に異常は見つかりませんでした。いわゆる「原因不明不妊」は、不妊症カップルの大きな割合を占めると言われています。

「まずは人工授精をすることになり、夫には月一回、私の生理周期に合わせて韓国から病院へ来てもらうことになりました。数日前に『この日のこの時間に病院に来て!』と頼むので、彼は韓国からやってきてトンボ帰りで戻っていきます。そんな期間がしばらく続き、6回人工授精をしましたが、妊娠反応は出ませんでした」

不妊治療の話は何度か聞いたことがありますが、やはりどうしても男性側が協力的ではないという声が多い中、治療のために韓国から大阪へ飛んでくるご主人の話には驚きます。

聞けば、夫婦共に「子どもが欲しい」という意思が明確だったと同時に、ご主人は不妊治療に難色を示したことは一切なく、検査や治療を妻主体ではなく根本的に“夫婦事”として捉えていたそう。

どんなに大事な仕事も家族のために調整し、必ず決まった日に韓国から日本へやって来たと言います。

「結婚を渋っていた頃と比べると意外でしたが、あのとき、これが“ファミリー”を何より大事にするアメリカ人の気質なのかな、と思いました。夫が優しく協力的だったからこそ、あれほど不妊治療を頑張ることができたんだと思います。ただこの頃は、何より実家の母がストレスでした……」

 

実は、大阪の良家出身の雪美さん。ご両親は地元で会社を経営されていますが、昔ながらの保守的な考えをお持ちで、もともと国際結婚にも反対だったそうです。

「実家に住ませてもらえたことは感謝していますが、不妊治療をすると告げたときは明らかに落胆されました。『だから普通に日本人と結婚していれば良かったのに』『あなたは判断を間違えたんじゃないの?』などチクチク言われ、精神的に参りました」

 

ご両親はおそらく悪気があっての発言ではないと思いますが、親の言葉というのは良くも悪くも子どもに大きな影響を及ぼします。

治療で排卵誘発剤を使うようになったときは、お母様は自己注射をお腹に打つ娘の姿に衝撃を受けてしまったようで、もう小言を言わない代わりに腫れ物に触るような態度になってしまったそう。

家族のプレッシャーもある中、雪美さんは人工授精に見切りをつけ、思い切って成功確率が上がる体外受精にステップアップすることにしました。そして、一度目の体外受精で初めて妊娠反応が出たのです。

「一度目の体外受精で妊娠がわかったときは、あまり公には言いにくいですが、『不妊治療ってそこまで大変じゃなかったなぁ』なんて、すっかり舞い上がってしまいました。もともとポジティブな性格ではあるので、人工授精をしていた期間もそれほど深刻に悩むこともなく……。

このときは家族や友達に後先考えずに『妊娠したよ!』と報告してしまい……あとから酷く後悔しました。でも、赤ちゃんの心拍も確認できたんですよ」

流産が起こる確率は妊娠全体の約15%で、そのうち8割以上は妊娠初期に起こると言われています。けれど妊娠5週目で胎児の心拍確認ができた雪美さんは、すっかり安心していたそうです。

「9週目の健診で、エコーの画面を眺めていた先生の顔がピクッと動いた瞬間はよく覚えています。でも、そこからの記憶は曖昧で……たしか、しばらく無言のままエコーを確認した先生に『残念ですが、赤ちゃんの心臓が動いていません』と言われ、目の前が真っ暗になりました」

韓国で子宮の腫瘍を取り除いてから不妊治療を開始し、約2年。ようやく妊娠反応が出た後の流産に、雪美さんは酷くショックを受けました。流産がわかった後は手術をする必要がありましたが、これも予想以上の痛みと身体への負担があったと言います。

しかしながら、この流産は雪美さんにとって、まだ初まりに過ぎませんでした……。

その後、いくつか病院を変え、焦りと不安の中で何年も様々な治療をすることになるのです。

来週公開の記事では、長期に渡った不妊治療中の心情、職場での葛藤……そして、治療を中断してしまったコロナ禍でのご主人の“ある提案”についてお話いただきます。


写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙

 

 

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