ネットバンキングは振込手数料がとってもお得


国内でネットバンキングのサービスが始まったのは、今から25年以上前の1997年のこと。以来登録件数を伸ばし続け、2000年に入ると店舗を持たずにネット上のみで取引を行う「インターネット専業銀行」までもが誕生しました。楽天銀行や住信SBIネット銀行、ソニー銀行などがその代表で、こちらは店頭窓口も併用できるネットバンキングとは少し異なり、ネット銀行と呼ばれています。

インターネット調査を手掛けるマイボイスコムが2023年初めに行った「インターネットバンキングの利用に関する調査」によると、現在ネットバンキングを利用している人は全体の7割弱。最も使われているのは口座情報の照会や明細の確認で、次いで振込や送金の利用となっています。コロナ禍で利用が加速し、シニア層にも普及が進みました。

ネットバンキングのメリットは、便利で、かつ振込手数料が無料もしくは低額に設定されていること。3大メガバンクでは以下のようになっています(取引状況に応じた優遇は記載していません)。

三菱UFJ銀行「三菱UFJダイレクト」三菱UFJ宛の振込手数料無料。他行宛は振込金額3万円未満154円、3万円以上220円で、ATM・窓口より最大550円お得。2023年3月31日までにEco通帳(インターネット通帳)へ切り替えをした場合、先着20万人に1000円を贈呈するキャンペーンも実施中。

三井住友銀行「SMBCダイレクト」三井住友宛の振込手数料無料。他行宛は振込金額3万円未満165円、3万円以上330円で、ATM・窓口より最大440円お得。さらに「ことら送金」サービスを利用すれば、10万円以下の送金が他行宛も含めて手数料無料。

みずほ銀行「みずほダイレクト」みずほ宛の振込手数料無料。他行宛は振込金額3万円未満150円、3万円以上320円で、ATM・窓口より最大560円お得。
 


悪用した還付金詐欺も


ネットバンキングは、口座番号や暗証番号などの情報を入力するだけですぐに始められます。登録に関して特に難しいことはないので、ネットが苦手な親御さんでもサポートがあればすぐにできるでしょう。ただし利用に関しては注意すべき点もあります。

実はネットバンキングは、登録が簡単であるがゆえ、還付金詐欺の相談が増えているのです。これまで詐欺と言えば、ATMで振り込ませる手口が主流でした。しかしここ数年で、ネットバンキングを悪用した事例が多発。2021年は584件、8億2000万円の被害が出ており、最も被害の大きかった2015年は1495件、30億7300万円(!)もの被害額になりました

その多くは、フィッシング詐欺やウイルスの感染によってネットバンキングのIDとパスワードを盗み出す手口ですが、中には以下のようにネットバンキングを開設していない方が狙われた事件もあります。

①市役所の職員を装った犯人から「介護保険の過払い分の払い戻しがある」と電話が来て、取引銀行を確認される

②後日、取引銀行を名乗り、還付金を受け取るためという名目で「口座番号・暗証番号・生年月日」を聞かれる

③断ったが「キャッシュカードや通帳はこちらにはないので安心してください」と言われ、確かにそうだと納得して教えてしまった

④最終的な本人確認をクリアするために、再度連絡が来て、認証用のフリーダイヤルに電話をするように求められる

⑤その後、ネットバンキングの申し込みがされていて、知らない口座に送金されていた

このように、もはやネットを使っていなくてもネットバンキング詐欺被害に遭う可能性は十分にあります。開設前はもちろん、開設後も安易に口座番号や暗証番号を教えないよう、親に伝えることも大切です。「お金が返ってくる」という電話は詐欺の可能性があります。お金の動きがおかしいと思ったら、すぐに最寄りの警察やお住まいの自治体の消費生活センター等にご相談ください(警察相談専用電話「#9110」、消費者ホットライン「188」)。

全国銀行協会では、被害に遭った日から30日後までに金融機関へ通知を行った場合、不正利用被害の補償をするとしています。なお、このような被害を避けるため、70歳以上の方のネットバンキングの申し込みを一部停止している銀行もあります。たとえば群馬銀行では、インターネットと郵送の申し込みは停止し、本支店窓口でのみ受け付けを行っています。
 

利用する際に注意したい「4つのポイント」


ネットバンキングはメリットも多く、活用しない手はありません。ですがリスクは避けたいもの。そこで高齢者に限らず、すべての利用者が注意したい4つのポイントを紹介します。

①金融機関を名乗るメールやSMSには慎重に対応
IDやパスワード等の入力を求めるメールやSMS(ショートメッセージ)が送られてくる場合がありますが、記載されているURLに安易にアクセスするのは避けましょう。本物そっくりの偽サイトへ誘導される可能性が高く、盗んだ情報でログインし、不正取引されてしまいます。不審なメールやSMSを受け取った場合は開封せずに削除し、気になるようであれば正規のサイトへアクセスし直して確認してください。なお、複数の金融機関が「当行から送信するメールやSMSにURLを記載することはない」としています。

②セキュリティ対策は万全に
銀行がいくらセキュリティ万全でも、自分のパソコンやスマホに抜けがあると被害に遭ってしまいます。OS、ブラウザ、セキュリティソフトを常に最新の状態にアップデートすることはもちろん、口座やログイン情報などは厳重に管理し、パスワードの自動登録などには注意してください。知らないうちにマルウエアなどに感染しないよう、親御さんのパソコンやスマホは定期的に確認してあげると安心かもしれません。

③利用限度額を低めに設定
振込上限金額やキャッシュカード利用額を必要最低限に設定していれば、万が一不正送金被害にあった場合でも、被害額を最小限に留めることができます。また、複数の銀行に口座を持っている場合は、「まとまったお金を管理する銀行」と「10万円くらいまでの少額を入出金する銀行」に分け、後者をネットバンキング専用にしてみてはいかがでしょうか。そちらではそこまで大きな金額は動かさず、常に50万円くらいの残高をキープしつつ、うまく活用できれば良いと思います。固定資産税など決まって支払うものは、口座振替の手続きをしておくと良いかもしれません。

④最新のEメールアドレスを登録する
ネットバンキングで振込などを行った場合、取引内容をメールで受け取ることができます。不正があった場合にも即対処できるよう、連絡先のメールアドレスは日常的に見る最新のものにしておいてください。
 

数十年後には紙の通帳がなくなる…?


ネットバンキングの普及に伴い、時代もWeb通帳へと変化しています。実はアメリカでは、かれこれ10年以上、紙の通帳がほぼ使われていません。ここ日本でも、新たに口座開設して紙の通帳を依頼すると、550〜1100円ほどの手数料がかかるようになりました。

一方、ネットバンキングは、紙の通帳のようになくしたり盗まれたりする心配はありませんが、いざという時に家族がログインできないと、残高がいくらあるのかを知ることができません。介護をしていると、急な入院などで親のお金を引き出すこともあります。亡くなった後も、紙通帳があれば親がどの銀行と取引があったのかを確認することができますが、Webだと把握できないことも想定されます。

70歳以上であれば、紙の通帳の手数料がかからない銀行も多いので、ぜひ家庭の事情に合わせて利用方法を考えてみてはいかがでしょうか。
 


写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 


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