安すぎるこの国の絶望的な生活

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食料品価格、光熱費も軒並み値上がりし、「節約」の2文字が頭から離れない日はない昨今。社会保険料も増える一方で、先行きを見通すのがますます困難になっていると感じますが、私たちは何から始めればいいのでしょうか。就職氷河期世代と雇用の問題を長年取材してきた小林さんは、目の前に立ちはだかる現実を見据えて、次のように締めくくります。

不安定な非正規雇用をなくさなければならない。これこそ、原則、正社員にするよう大胆な改革が必要だ。企業が社会保険料の負担を逃れたいために業務請負契約などを拡大させるのであれば、もう、その仕組みそのものを抜本的に変えて、労働者全員に社会保険や雇用保険が適用されるようにしなければならない。社会保障をどう変えていくのか、国は正面から取り組む時に来ている。

筆者はこれまでも提案しているが、たとえば「格差是正法」を作り、行き過ぎた規制緩和を正していかなければならないのではないか。あたかも何かが変わるような気になるだけの「改革」から目を覚まさなければならない。

それは、年収443万円という、実は安すぎるこの国の絶望的な生活を直視することから始まる。

「お昼ご飯は500円以内」
「スタバで705円もする和三盆ほうじ茶フラペチーノなんて贅沢」
「小遣いは月1万5000円。外食はおごってもらえる人としか行かない」
「ペットボトルのお茶を買うなんてもったいない。水筒を持っていく」
「携帯電話はUQモバイルに乗り換えて月5000円浮かす」
「スーパーでは半額シールがついているものを買う」
「マクドナルドのセット800円に手が届かない」
「たまねぎ1個80円なんて買えない」
「娘の習い事をひとつ減らさなきゃ」
「飲み会に行けば5000円かかるから、行かない」
「何の料理を作りたいかじゃなく、何が安いかでメニューを考える」

今、私たちは、こういう社会に生きている。
 
 

著者プロフィール
小林美希(こばやし・みき)さん

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社「エコノミスト」編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期世代の雇用、結婚・出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年度日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『ルポ 中年フリーター』(NHK出版)など著書多数。

『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』
著者:小林美希 
講談社 968円(税込)

「平均年収443万円」では、暮らしていけない国になった――。就職氷河期世代を取り巻く苦難と、訪れる未来への打開策はあるのか。ジャーナリストの著者が、中間層が崩壊した日本社会で生きる平均年収の人々、そして平均年収以下の人々を取材し、この30年間で日本に何が起きたのかを、あらゆるデータと共に考察する。


構成/金澤英恵