私が若い子にお金を貸すとしたら、失敗に使ってくれと言って渡したい

 

——お金持ちが失敗することで生まれることもあったというのは、面白い視点です。

 

柚木:昔は金持ちが一か八かのお金の使い方をしたんです。貴族の道楽って言われるかもしれないけど、それが雇用を生んでいたんです。昭和の文芸とかでも、全然食えない作家に菊池寛が食わせてやってその人が有名作家になる、みたいなことがあった。

でも、今はそんなことがない。先ず、バズって初版がちゃんと稼げる、という版元に確証がないとなかなかデビューできないですから。豊かじゃないと誰も失敗できないので、どんどんカルチャーがやせ細っていく。

宝石なんて最たるもので、失敗しないと学べないんです。着物もそう。「絶対安心な着物」を作るって、何も楽しくない。思いきって、バッタの柄が好きだからと、その柄の着物で歌舞伎とか行って、「え、なにその柄」とか言われて「バッタはまずかったか……」というところから、センスは磨かれる。今だと海外では有名人が無名のアーティストの服を着たらいきなりバズるみたいなことがよくありますが、そういうのは日本ではない。失敗できる土壌みたいなものが必要なんです。だから、私が若い子にお金を貸すとしたら、「それで成功してね」じゃなくて、失敗に使ってくれと言って渡したいです。

——柚木さんは下の世代にどんな気持ちで接していらっしゃるんでしょうか。

柚木:若い人とお話していて、すごくたのしいんですよね。母校・恵泉女学園の創立者である河井道の言葉で、「常に下の世代のほうが優れている、それはいいことなんだ」というものがあるんです。過剰に自虐的になる必要もないんですけど、下の世代のほうが優れているというのは当たり前のことなんだなって。
 

インタビュー後編は4月24日公開予定です。
 

<新刊紹介>
『オール・ノット』

著:柚木麻子

奨学金を借りながら大学に通う真央は、実家が貧しく、PCが買えず、一人暮らしの資金もないためシェアハウス生活を送っていた。アルバイトで資金を貯め、一人暮らしは叶うも、友達もおらず、バイト先と大学を往復するだけの生活を送っている。
将来奨学金を返済することだけを考え、そこから逆算して学部や将来就く職業も決めた。
そんな真央はある日バイト先で、嘘つきだがその人が売り場に立つとたちまち商品が飛ぶように売れる、不思議な試食販売員のおばさんに出会う。
山戸四葉というその人は、実は名家の出身で……。
真央は山戸家の周辺の様々な女性に出会い、山戸家にかつておきたある事件の真相を知ることになる。

今度の柚木麻子は何か違う。
著者の描く3歩先の未来にあるのは、ちょっとの希望とささやかな絆。

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友達もいない、恋人もいない、将来の希望なんてもっとない。
貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。
「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」
彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく。

「大丈夫だよ。オール・ノットの真珠にすれば。あんたみたいながさつな子も。これは絶対に切れない、そういうつなぎ方をしているんだよ」
「え、オール・ノットって、全部ダメだって意味じゃなかったっけ?」
「全部ダメって意味もあるけど、全部ダメってわけでもない、っていう意味もあるんだよ。そうだよ。全部ダメってわけじゃないんだよ。なにごとも」


撮影/市谷明美
取材・文/ヒオカ
構成/坂口彩