上場企業になると規模が大きいので感覚が少し麻痺してしまいますが、この話は街のケーキ店など、小さな商店を想像してみれば分かりやすいと思います。ケーキ店は、自らの資金で必要な食材を仕入れ、手間をかけてケーキを作ってお客さんに売って利益を得ています。つまり先にお金が出ていきますから、商品を販売し、代金を獲得して、初めて利益となるわけです。

ここで、自分の店で作ったケーキを自分で食べてしまえば、これまでにかけた労力と仕入れに使ったお金は全て損失になってしまいます。最近では、多くの家庭がサラリーマン世帯ですが、いわゆる商売を営む家庭で育った人であれば、親から「決してウチの商品に手をつけてはいけない」と厳しくしつけられていたはずです。

上場企業と街のケーキ店は、規模が違うだけで事業を行っているという点では全く同じであり、会社の所有者である株主(ケーキ店に当てはめればオーナーである商店主)が、自社の商品を消費する行為というのは、自ら所有する会社に損失を与える行為に他なりません(つまり日本の株主は企業を自分が所有しているという感覚が乏しい)。

イラスト:Shutterstock

こうした事情から、海外では株主優待という制度は存在しなかったのですが、どういうわけか日本だけで独自の発展を遂げてきたという経緯があります。しかし、こうした点が明らかになるにつれ、見直しを検討する企業が増え、優待を提供する企業は減っているのが現状です。

 

このように株主優待には様々な問題があるため、基本的に筆者は株主優待だけを目的に投資することはあまりお勧めしません。

もっとも筆者自身も優待を実施している企業に投資するケースもあり、年間10〜20万円分の食事はタダで享受できています。しかしながら、必ずその商品を消費することが分かっており、かつ、その会社の業績が好調だからというのが投資の理由であって、株主優待そのものが目的ではありません。

投資というのは自分の大切な資金をリスクのある企業に投じるという行為であり、株価が継続的に上昇しなければ、意味がありません。これから優待を目当てに投資するという人は、本来の目的と違うことにならないよう、十分、吟味してからにすべきでしょう。
 

 

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