枕元に携帯電話を置き、緊急の悩み相談に対応


──庵主さんはそのように実体のない恨みや悩みを「心のゴミ」と呼び、不徹寺に来て、話して、手放すことを薦めていますね。いろんな人から心のゴミを受け取っていると思いますが、それで疲れることはないのですか?

全然! 毎朝4時半からライブ配信している生読経で、心のゴミはどんどん燃やしちゃいますから。唱えるだけで体はポカポカ、隙間風が寒い真冬の本堂でも暖房いらず。皆さんの心のゴミが私の燃料になってるみたいなものですから、電気光熱費諸事値上げの昨今、かえって感謝ですよね(笑)。

──寝る時は相談用の携帯電話を枕元に置いていらっしゃるそうですね。なぜそこまで人の悩みを聞いてあげることができるのでしょう?

私自身も、しんどい時期がありましたから。厳しいけれど大好きだった父が急死し、夫から理不尽な三行半を突き付けられた頃は、毎日死にたかった……。特に、夜がつらくって。孤独が身に染みるんですよね。だから緊急性があると判断した方には、いったんご相談が終わった後も、「午前2時でも3時でもいいから電話をかけてきて」と申し添えています。時には受話器を握りしめながら、一緒に朝まで泣いたりすることもありますね。

話すことは「離す」、つまり心からいったんゴミを引き離すことにもつながるんです。まずは打ち明けてほしいです、何でも。

写真:Shutterstock

大切な人は自宅で看取り、自分は病院で最期を迎えたい


──ちなみに、緊急性があるのはどのような人ですか?

以前、婦人科系のがんを患っておられる50代の女性がお寺に駆け込んでこられ、「転移が不安で、夜も眠れないんです」とただただ涙に暮れておられて。私は看護師出身ですから、やはり深刻な病を抱えておられる方などはとても気になります。「眠れない時は、いつでもお電話してね」とお声がけしたら、遠慮がちにかけてきてくださったんです。せっかくだから、スマホをスピーカーモードにしてもらい、仰向けになって一緒に呼吸法にトライしたら、その女性はいつしかスーッと眠りに落ちていて。嬉しかったですね。

 

──かなりリラックスできたんでしょうね。それにしても、深刻な悩みって家族などの身近な人には意外と話せないものなんですね。

そのようです。多くの相談者が「家族に迷惑をかけられない」とおっしゃるんですよ。皆さんとても真面目なんですね。看護師時代に「末期がんになったらどうしたいですか?」というアンケートを取ったことがありました。自分がなった場合は、「周りに迷惑をかけたくないから、病院か施設で過ごしたい」という答えがダントツだったのに、「大切な人が末期がんになって自宅で過ごしたいと言ったら?」という問いに対しては、「自宅で看てあげたい」と答えた人が多かったんです。この傾向って、日本人独特みたいですね。迷惑をかけるのを必要以上に怖がってしまう気がします。