真意不明


「本当に素敵なフェアでした。結婚式全体の進行イメージができました」

試食会が終わると、立花様は最初よりもずっとリラックスした様子で微笑んだ。

「それは良かった。ご新婦様がまずは気に入ってくださるのが一番ですから」

「……1人でこんなところに来て、私のこと、冷やかしだと思ってますよね? じつは、ここに来るのは2回目なんです。2年前にも一度。そのときは見学会だったから名前は残ってないでしょうけれど」

「そうでしたか! 再来いただけるとは嬉しいですよ、何度でも隅々まで確認してください」

単純な僕は、嬉しくなって声を弾ませた。2年も間があいたのは何か事情があるに違いないが、そんなことはかまわない。そもそも「事情」がない結婚なんてあるのだろうか?

「そのときは、乗り気じゃない彼を、通りがかったふりして連れてきたんです。興味なさそうにしていたけど、彼も気に入っていたみたい。……2年経って、ちゃっかりここを選んだんですもの」

立花様は、そうつぶやくと、会場のほかのカップルたちを見た。どうやらご新郎様ともすでにコンセンサスが取れているようだ。意外に成約も早いかもしれない。ますます嬉しくなった僕は、モデルプランやら見積もりやら、タイムテーブルやらについてご紹介した。

「全体像がとっても良くわかりました。これで『計画』が立てやすいわ。助かりました、ありがとう桜木さん」

 

たくさんの資料を抱え、立花様はその日の最後ににっこりと笑った。口先だけの人には見えなかったから、近いうちにお2人でいらっしゃる気がしていたが……。

彼女は二度と、ご新郎様を連れて現れることはなかった。

 

ナイトウェディング


半年後、すっかり季節は移ろい、式場は6月の繁忙期。梅雨がある日本にジューンブライドとはおかしな話だが、もとが雨で敬遠されそうなシーズン、関係者としてはありがたい話だ。

今月、大安の土曜日は今日だけだったので、朝から3組の結婚式が入っていた。

僕のお客様は3回目、ナイトウェディング。ピアノの生演奏やガーデンプールのキャンドルの装飾のおかげで、意外に人気の枠だった。精一杯盛り上げよう。

ご新郎様は35歳、ご新婦様は26歳。とにかく男性のほうが若い奥様にデレデレ……いや、ぞっこんで、打合せ中も当てられっぱなしといったところ。ご新郎様は大企業勤めで、ゲストも会社や大学の関係者が中心だ。

――祝電が25通もあるぞ、時間をとってお2人に事前に確認してもらわなくちゃ。

僕は祝電をひとつずつ見やすいように並べていく。すると1通、台紙に薄墨のようなもので流線が書いてあるものがある。祝電のデザインバリエーションはさほど多くない。僕は見慣れない台紙を手に取った。

“お幸せに。Y.T”

それだけ。一見、おかしなところはない。

……しかし、その電報の台紙を正面から見て、僕は慄いた。
 

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春の宵、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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