ゼロでなく「マイナススタート」の人たちを押し上げる

 

競争から追いやられた人たちは、そもそも就職活動・転職活動においてどんな壁に直面するものなのでしょうか。

「何に困っているのか分からない、どんな問題を抱えているのか理解してもらえないということが、そもそもの大きな障壁になります。シングルマザーを例に挙げると、世の中にはシングルマザーではない人の方が多いので、シングルマザーの困難さは理解されない場合が多いのです。世の中の情報は多数派を前提として発信されていますから、少数派の意見はなかなか表に出てきません。マイノリティ・生活困難層と周辺層・非主流派の人が社会に受け入れられるためには、社会正義に基づく個別のカウンセリングが必要なんです」(下村さん)

本書では、社会正義の種類として「応報的正義」という考えが紹介されています。「頑張った人は頑張った分、報酬を得る。一方で、頑張らなかったら頑張らなかった分だけ、報酬が減るというタイプの正義」と定義されていますが、こういった自由競争の実現においては、もともと不利な人にはハンディや支援があってこそ、公平・公正な競争になるとしています。

しかし現代社会では、“弱肉強食”の面が根強いと感じます。その点について、本書の中で下村さんは次のように指摘します。
 


報酬を得ている人、持てる者、富を集めた人間が、果たして純粋に本人の頑張りのみによって、それを得たのかということです。いろいろな面で資質に恵まれて生まれてきた人は多いでしょう。それなりに努力もしたでしょうが、運が良かった面も否めないでしょう。決して応報的正義が前提とする単純な因果応報が成り立つとは言えません。
――『社会正義のキャリア支援:個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』より
 


公正・公平さが実現していない労働市場では、決してスタートラインが平等ではなく、努力や能力が所得と結びつかない場合もあるのです。

社会正義のキャリア支援が必要な方は、スタート地点がゼロではなくマイナスである場合がほとんどです。もともと不利な状況に置かれているので、まずはマイナスをゼロに戻すことから始めなければなりません。しかしながら、マイナスの状態から自力でどうにかするのは難しいので、キャリア支援としては、その方たちの努力が報われるところまで、なんとかして押し上げてあげる必要があるのです」(下村さん)