「普通」の道を歩む人は、100万人のうち20万人

 


また、本書で興味深かったのは、実は「普通」の進路を歩む人は多くない、という事実の指摘です。
 


日本では、「普通」の進路として、「高校を卒業し、大学を卒業して、正社員として就職すること」を思い浮かべます。(中略)
仮に高校1年生の在籍者数をざっと100万人とした場合、高校・大学を無事卒業し、正社員として就職し3年間勤めあげる人は約20万人に過ぎません。
――『社会正義のキャリア支援:個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』より
 


それにもかかわらず、今の日本では非常に狭い意味での「普通」を歩むことが前提とされているように感じます。一度「普通」から「コースアウト」すると、労働市場ではとても不利になってしまいます。例えば、一度でも非正規就労者になると正社員になることは難しくなり、主に任される仕事は周辺的な労働に限定されてしまいます。「正社員でないと主流派ではない」という風潮には、大きな問題があると感じざるを得ません。

 

「メンバーシップ型の雇用」だからコースアウトが生まれる


「そもそも、コースアウトという概念が出てくるのは、日本が“メンバーシップ型の雇用”だからなんです。これが、いわゆる“一般コース”なわけですが、ここから一歩踏み外すと、いきなりパート・アルバイトなどの非正規雇用の仕事しかなくなってしまう。さらに、メンバーシップ型の雇用の影響によって、非正規就労者の賃金は抑えられてしまっています。

日本はずっとメンバーシップ型でやってきて、それが崩壊しつつあると言われてからもう30年近く経っています。キャリア支援の専門家も“ジョブ型の雇用”の方が多くの人が働きやすくなると考えていることが多く、私自身もジョブ型を支持しています」(下村さん)
 


⚫️メンバーシップ型の雇用……新卒一括採用、終身雇用を前提として、総合職として配置転換しながら割り振られた業務を行う日本型の雇用システム

⚫️ジョブ型の雇用……必要とする能力や経験がある人を仕事を特定して雇用し、その仕事に対して賃金を支払う。よりスキルや専門性を重視する欧米で主流の雇用システム



「考え方によっては、正社員という基本システムをやめて、ある意味ではみんなが非正規のようになった方がいいともいえます。そうなれば、途中でキャリアが分断されたとしても “コースから外れる”という概念自体がなくなりますから。労働市場の中を自由に行き来できるようになるのが、これからの働き方ではないでしょうか」(下村さん)