娘に起きた不吉な異変


その頃、夫の剛さんとは、言い争いもほとんどありませんでした。しかし、分かりやすい喧嘩がないぶん、ひたすら外と子どもに気持ちが向いている愛佳さんとの溝は広がっていたのです。お互いにこうしてほしい、休日は一緒に過ごしたい、という気持ちがまったくなくなっているのを感じていました。いつの間にか行動単位は愛佳さんと娘さん、剛さんという2チームに。お話を伺う限り、無関心という言葉が一番近いように思えました。

 

お2人は、なまじ理性的であったため、不満を理不尽にぶちまけるということがなかったのではないでしょうか。そして真面目がゆえに、子育てと仕事という目に見えるミッションの達成=人生で重要なこと、という命題にむかってそれぞれが動いています。ただ、パートナーとの関係性が後回しになっていました。

 

危うい均衡が崩れたのはお子さんが小学校に入学したときでした。

「小学校に入って3ヵ月くらいたった頃でしょうか。娘が『今日、お友達の座布団をハサミでわざと切っちゃった』と言うのです。そのときの衝撃は今でも忘れません。理由を聞くと、どうしてそんなことをしたのかわからない、でもイライラしたと。

それから、娘の不穏な言動は続きます。『1人がいいの。周りにお友達がいるのが嫌』『わんちゃんが欲しいけど、いじめちゃうかもしれないからやめておこうかな』『〇〇ちゃんのおうちの玄関に咲いていた花をむしった』など、背筋が冷たくなるようなことを口にするように。

正直にいって、それまで私は、子育てだけはうまくいっていると思い込んでいたんです。だから足元から崩れるようなショックでした。やがて娘は学校に行きたくないと言うようになってしまいました」