お互いに「ちょっと羨ましいな」と思ってるところから少し幸せになっていく


でもこの物語が面白いのは、自分の幸せのために「仮面の人生」を自ら選んだ女性も存在すること。彼女は「自分はもともとこんな人間だった気がする」とすら言います。お話全体が喜びに包まれるのは、10人の女性たちが自ら選んだ幸せを互いに肯定し、祝福しているからかもしれません。

この時代の女性の幸せといえば、結婚、出産、家族がつきもののように感じますが、実のところ作品に出てくる女性の過半数が、結婚もせず、出産も経験していません。とくに小泉さんの印象に残るのは、ヴィヴァルディの曲で大スターとなった歌手のジロー嬢と、ピエタ出身で商売人と所帯を持ったジーナ。ふたりは互いの生活に憧れているのです。

 

小泉:子育て中の友人とかと会ってご飯を食べてたりすると、夫や子供のことを「わー」ってすごい勢いで話すんですよね。でもその様子に「もしかしたら本当は仕事がしたかったのかも」と感じる瞬間があって。子供を産まなかった私は、その友人を「ちょっと羨ましいな」と思ってるんだけど、向こうは向こうで同じように思っているんだろうなと察して、でもそんなことには触れず、このまま黙って話を聞きながら時間を進めようとか思ったり。私みたいな仕事をしていると、一般に暮らしている幼馴染みとかは、すごく羨ましがったりするんです。華やかに見えるし、なんかちやほやされてそうにも見えるし。「いや、でも中入ってみ? 相当根性ないと務まらんぞ」なんてことも思ったり(笑)。そういう寂しさから解放されるための一番の方法って、互いの立場を思いやり、共有できる何かを見つけていくことだと思うんです。物語ではそうやってみんながちょっとずつ幸せになってゆく。その結末が本当に素敵なんですよね。

 


ヴィヴァルディの存在によって。彼の美しい音楽によって。エミーリアと「ある楽譜」の存在によって。心が触れ合ったあの夜の思い出によって。ゴンドラが滑る水音によって。様々な記憶によって、女性たちは円環のようにつながっています。

INFORMATION
舞台「ピエタ」

少女だったことがある、全ての女性に捧ぐ–––
小泉今日子、念願の小説『ピエタ』舞台化。2023年夏、ついに実現。

 
<STORY>
18世紀、爛熟期を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児を養育するピエタ慈善院で〈合奏・合唱の娘たち〉を指導していた。時は経ち、かつての教え子エミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。そして一枚の楽譜の謎に、ヴィヴァルディに縁のある女性たちが導かれていく――。ピエタで育ちピエタで働くエミーリア、貴族の娘ヴェロニカ、高級娼婦のクラウディア……清廉で高潔な魂を持った女性たちの、身分や立場を超えた交流と絆を描く。運命に弄ばれながらも、ささやかな幸せを探し続ける女性たちの物語。


原作:大島真寿美「ピエタ」(ポプラ社)
脚本・演出:ペヤンヌマキ
音楽監督:向島ゆり子
プロデューサー:小泉今日子
出演者:小泉今日子 石田ひかり 峯村リエ / 広岡由里子 伊勢志摩 橋本朗子 高野ゆらこ
/ 向島ゆり子 会田桃子 江藤直子

撮影/榊原裕一
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩