超音波検査はあくまで「追加」。初めから行うのはデメリットが多いとの研究結果も。


山田:もちろん、超音波の検査が必要な場合もあります。組織の濃度が高すぎる場合、マンモグラフィで十分検出できないので、追加で超音波検査を行うことはあります。ですが、初めからマンモグラフィに加えて超音波検査をしたらどうなるかを調べた研究によれば、メリットは増えないばかりかデメリットが増えた、という結果になったのです。

編集:超音波検査は放射線も使わないですし、デメリットを想像しにくいのですが......。

山田:そうですよね。では、超音波検査も、MRI検査も、どうやって異常を検知するかをまず考えてていただくと、分かりやすいかもしれません。異常の検知は、そこに存在しないはずの「影」が見つかるかどうかです。その影が何を反映しているかははっきりしなくとも、見つけてしまったら、とりあえず「がんかもしれない」と疑います。

編集:たしかにそうですね......。

 

山田:その影が「がんかどうか」を確認するためには、針を刺すか、体にメスを入れて中身を取って調べてみなくては、結局はわかりません。

針をさせば、当然その針によって痛みを起こしたり、出血をしたり感染を起こすなど、色々な合併症のリスクが付きまといます。本来であれば、できるだけ針は刺したくない。ところが、影が映ってしまうと、針を刺さざるを得ないことも多いのです。

検査をして、影が見つかり、針を刺して中身を調べても何もなかった場合、「見つける必要のない影でした」という結論で終わります。超音波検査は、そんな不必要なケースをたくさん生み出している、ということがわかっている上に、がんを効率よく見つけることには繋がらなかった、という研究があります。

このような研究結果を踏まえ、始めから超音波検査やMRI検査を追加するということは基本的にせず、まずはマンモグラフィを行い、その結果に応じて追加の検査を考える、というのが基本的なスタンスです。

編集:なるほど、理解できました! まずはマンモグラフィ、そして必要であれば検査を追加していく、という流れですね。

ちなみに、個人的に調べたところ、「たばこを吸っている」「妊娠・出産経験がない」「血縁者に乳がんにかかった人がいる」という方は、検査を早めに受けた方がいい、という記載も見たことがあります。こちらはいかがでしょうか?

山田:そうですね。ご家族に、早くして乳がんや卵巣がんにかかってしまった、という乳がんのリスクが極めて高い方を除いては、一般の方と同じ年齢で、同じ検査が推奨されると思います。もちろんタバコを吸っていればリスクは上がるのですが、それ以上に、年齢に応じたリスクの増加の方が大きいですね。

もちろんケースバイケースですので、疑問に思われた方は、ぜひかかりつけの医師ですとか、地方自治体の担当の方に問い合わせていただければと思います。
また、しこりなど気になる症状がある場合は、すぐに専門医を受診してください。

編集:なるほど。

山田:本当は、限りなくリスクをゼロにするようなパーフェクトな検査がこの世に存在すればよいのですが、物事には限界があります。現時点でわかっている範囲での最善の選択、という意味で、40歳から2年に1度、マンモグラフィを受けていただくことが推奨されている、ということですね。

編集:ついつい「早期発見が大切」という視点だけで行動しそうになっていましたが、さらに「その検査が本当に自分の健康にとって有益か?」という視点を待つことの大切さを学ぶことができました。

結果問題なかったとしても、不要な検査を受けて「精密検査が必要です」と言われたら、心理的に不安な日々を過ごさなくてはいけないケースも多くありそうです。

「受けた方がいいかも」と思った検査でも、受診する前に、本当に有効な検査なのかを、一度立ち止まって考えることが大切ですね。本日もありがとうございました!

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構成/新里百合子

 


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