「危険から自分を守るため」だけのものではない。人間が他者と関わるために一番大事なこと


アツミ:「性教育≠セックスを教えること」なら、性教育って何を教えるものなんでしょうか?

因田:村瀬先生はよく「性教育は人間関係の学び」とおっしゃっていますが、本当に、人間が他者と関わるために一番大事なことだと思うんです。

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坂口:ちなみに、日本以外ではどんな教育がなされているんですか?

村瀬:多くの先進国では、国際セクシュアリティ教育ガイダンス(以下、ガイダンス)を指針に、包括的な性教育が実践されています。
 


※包括的性教育
性を、家族についての理解をはじめ、人との関わり方や相手の立場を考えることとして捉え、性交や出産はもとより、科学・人権 ジェンダー平等に基づき幅広く、年齢に応じたカリキュラムに沿って学ぶ性教育。
 


アツミ:ガイダンスでは、性教育の開始年齢は5歳になっています。

村瀬:言葉を覚え始める3歳ごろから始めるのがいいともよくいいますね。

因田:小学校低学年って、同級生間の「ズボンおろし」とか「スカートめくり」とか「かんちょー」とかも始まる年齢なので、「口、胸、性器、お尻は、自分だけが大切にさわることのできるプライベートパーツ」だということを教えておくのは大事ですよね。

坂口:日本だとそういうことを「子供のおふざけ」とスルーしてしまう人が多いけど、性的な意味以外にも、身体の内部とつながったパーツだと考えたら、他人に乱暴に扱われるなんてありえない話ですよね。

村瀬:精神的にも大きな影響があります。性的ないじめは想像以上に深刻な屈辱感やコンプレックスを与えるし、自殺につながることもあります。それだけ深い傷を与える事なんです。

アツミ:子供を狙う性的加害者が狙うのもこの年齢が多いと聞いたことがあります。小学校低学年は「何も知らないから」と。

村瀬:文科省では子供たちが加害者にも被害者にもならないためのプログラム「生命の安全教育」を、未就学児童から高校生を対象にやろうとしていますね。
 


※生命の安全教育
文科省により2021年4月から始まった性被害防止のためのプログラム。「他者に触れさせてはいけないプライベートゾーン」「カップル間で起こる暴力・デートDVの危険性」「SNSで人と出会うことのリスク」などの内容が盛り込まれている。その一方で「はどめ規定」により性行為そのものは教えてはいない。
 


因田:性教育が大きな関心を集めていても、「性教育」という言葉は使わず「命の安全教育」というふわっとした言い方になるのは、世の中の「性教育=セックスを教えるもの」という偏見の裏返しのようにも思えます。「性を学ぶのは、その危険から自分を守るため」という意識も垣間見えますよね。

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村瀬:「性に近づいてはいけない」という恐怖と拒否感を育ててしまう方向性ですよね。性はもっとポジティブなものでもあるし、その両面を踏まえて教えていくのが、教育の仕事でしょう。