パニックと母の勘


「あれ!? え? 嘘でしょ……? この駅、違う駅……!?」

私はさっき里恵と別れてしまった「はず」の駅で降りて、衝撃のあまり思わず声が出る。

さっきの駅とは、ホームのデザインが違う。電車を降りて、そのまま向かいのホームに電車が来ていて飛び乗ってしまった。そうすれば単純に一駅戻れると……焦るあまり、思い込みで行動してしまったことを猛烈に後悔した。

もしかして、向かいのホームからは複数の行先の電車が出るのかもしれない。だとすると、この駅は、さっき里恵と別れた駅と遠くはないが、違う駅ということ……!

必死でホームを見回して、路線図を見つける。とにかく今いる駅の名前を探し、その前後で路線が二股以上に別れている駅……。

「やっぱり……! きっとこっちの方向の電車に乗っちゃったんだ。もう一度、一駅戻って、それからこの駅に行かなきゃ」

タクシーも頭をよぎったが、英語に自信がないし、土地勘もないから電車のほうが確実だと思った。ホームの時計は11時半を指している。今度こそ電車の行先表示を確かめて、11時45分、ようやく里恵と別れてしまった駅に戻る。

 

ホームの端からはじまで名前を呼びながら探すものの、姿が見えなかった。

私は必死で階段を駆け上がり、改札口まで走った。いない。係員をつかまえて、リトルでブラックヘアのガールをみなかったか、ピンクのスカートをはいていて、と必死で単語を並べる。

 

黒人女性のスタッフは、私が言わんとしていることはわかったようだったが、残念そうに首を振った。改札はここひとつ? と必死で訊くと、それも伝わったようで、大きく頷く。

――どういうこと? この駅にはもういないとしたら……私を追いかけて、次にきた電車に乗った? でもあの時たしかに、ここにいて! という言葉とジェスチャーは通じてたよね? だけどあれから30分以上経ってるから……不安になって動いたのかも。

不意に、夫が別れ際に、私と娘に宿泊しているホテルカードを渡したことを思い出した。もし迷子になったらここに戻るんだよと。娘は手ぶらだったけれど、カードはスカートのポケットに入れていた……!

――きっと、ホテルに戻ったんだわ。この駅から歩いて10分……あの子なら、私と違ってしっかりしてるから道を覚えてるかも。ホテルカードを誰かに見せたらたどりつくと思ったんだ!

私は改札口を抜けると、ホテルに向かって全力で走り出した。全身が冷や汗で濡れている。

――待ってて里恵……! 今、そこにいくから。
 

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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