再会と別離


妻の泉美と再会したのは今から5年前。生まれ育った佐賀で内装業をしているおれは、高校の同級生だった泉美が離婚して地元にもどってきたからと開かれた飲み会に呼ばれた。

高校卒業後、すぐに上京した泉美は昔から人目をひく美人。高校時代はほとんど交流がなかった。もっともサッカーに明け暮れていたおれは、女友達はほとんどいない。

再会してから意気投合、やがて付き合いはじめる。泉美は東京での昔の結婚生活について多くを語らなかったけれど、まっすぐで明るい性格の彼女が数年で離婚するからには、なにか大きな問題がある旦那さんだったんじゃないかと思っていた。だからその古傷にはあまり触れないようにしていた。

それ以外は、田舎の、どこにでもいるごく平凡なカップルだったおれたち。

ところが付き合って1年が経ったころ、泉美の妊娠が発覚。おれはもちろんすぐにどきどきしながらもプロポーズして、泉美は満面の笑顔ではい! と答えてくれた。

おれみたいに凄い才能もなく平凡に生きていても、そんなことは関係なくこんなに素敵なことが起こる。

人生ってうまい具合に平等だなあとしみじみ思った。

娘の美波が産まれて、泉美に似てとっても可愛くて、おれたちは間違いなく幸せの絶頂にいた。

今でも信じられない。受け入れられない。雨の日に泉美の車がスリップして横転、亡くなってしまったなんて。

 

そして現実は容赦ない。おれは途方に暮れながらも、内装業の傍らで、3歳の娘のシングルファーザーとして毎日をなんとか繋がなくてはならなくなった。

 

まず初日から困ったのはご飯。しばらく焼きそばとかうどんでやり過ごしたけれど、美波のことを思うとそうはいかない。必死で検索して、栄養が取れるものを作る。

洗濯や家事に関しても、泉美のありがたさを痛感する毎日。全てを任せきりだったおれは、美波の保険証がどこにあるのかもわからないありさまだった。家中探したけど、いまだに見つからない。

それでも、涙もろいおれはぼーっとしていると泣けてしかたなかったから、やることがあって良かったのだろう。

近所のおばあちゃんや、お隣の奥さんが、「これ美波ちゃんの好きな煮っころがしよ~」とお裾分けをくれて、そのたびにありがたくてただ、頭を下げた。

周囲の助けを借りて、なんとかかんとか……毎日をのりきる。

でも、夜になると、美波が「ママに会いたい。いつ帰ってくる?」と泣く。おれは美波を抱きしめて、歯を食いしばるしか術がなかった。

どうしてあの日、泉美を1人で行かせてしまったのか。あと数分でもずれていれば。

後悔も哀しみも、気を許せば一瞬で吹き出してくる。

あまりにも心が痛くて、もうすぐ四十九日だというのに、まだ泉美のお骨の行先を決められずにいた。おれは次男で、両親は長男一家と福岡に住んでいる。新しくお墓を建てるのが筋だと思うのだが、あることが引っかかっていた。
 

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秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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