「今日は選抜クラスの保護者会だよな……?」


「先生……! この前はありがとうございました。過去問の添削、とても丁寧にしていただいて。聡介ったらおっちょこちょいで、いつまでたってもうっかりミスが治らなくてすみません」

「いえいえ、聡介君、頑張ってると思いますよ」

僕は「さっそくですけど」と僕が担当する社会の過去問を広げ、相談を始める聡介のお母さんを見ながら考える。

今日は選抜クラスの保護者会だったよな?

聡介は、6年生の始めこそ選抜にいたけれどすぐにクラスが落ちてしまい、結局秋になるまで戻れていない。惜しい点数に迫ることは何回かあったけれど。

たしか前回の試験で失敗して、励まそうと2ブロック目の保護者会でお母さんを探したけれど、なぜか見つけられなかった。

僕が戸惑っている気配を感じたのだろう。聡介のお母さんはそうそう、と言うように頷いた。

 

「あ、すみません。私仕事をしていて、明日はどうしても都合がつかないので、今日の選抜クラスの保護者会に参加しますと教室長にお願いしたんですよ」

「ああ、そうだったんですね! お忙しいのにお疲れ様です」

「ほんとにねえ、あの子ったら、もうちっとも集中しなくて、テストのときは実力が出せなくて。困ったなあって思うんです、先生、お力をお貸しください」

そう言って拝むようなしぐさを見せるお母さんは、気取らない、気さくな保護者だ。6年生の保護者はたいていピリピリしているから、そういう方はありがたい。

僕は少しでも力になりたいと、張り切って勉強法のポイントを共有しはじめた。

 

あり得ないドタキャン


その半月後。ついに志望校を決定する講師と保護者の個人面談が始まった。

僕は二番手ブロックの保護者を中心に20人を担当する。その中には聡介のお母さんも予定されていた。

しかし聡介のお母さんは指定された日に、来なかった。重要な面談だ。そんなことは考えられない。電話をすると、すぐに繋がった。まるで僕からかかってくるのが分かっていたかのように。

「お忙しいところ失礼いたします。○○塾の講師、里中と申します。本日14時から面談の予定でしたが……」

「先生~、いつもお世話になっております。申し訳ございません、今日は伺えませんので、面談は後日、教室長にお願いできれば」

「は? ええと、今日のキャンセルは承知しましたが……延期したとしても聡介君は私が担当させていただいておりますので、ご了承ください」

僕はドタキャンに悪びれない様子に少々むっとしつつも丁寧に答える。

すると電話は、ぶつっと唐突に切られた。

――え!? あちらの電波が悪かった?

思わず受話器を見るが、無機質なツーツーという音が響くだけ。すぐにかけ直したがもう繋がらない。……僕は呆然としながら、受話器をそっと置いた。

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秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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