1人のモンスターが起こした事件と見るのではなく当事者でありたい


二階堂:最近はなんでも二項対立にしてしまいがちで、自分も含めたメディアがそういう状況に加担している部分はすごく大きいと思うんです。だから、誰かを傷つけたり批判するのではなく、なるべく素直に他者の言葉に耳を傾けたいと思っています。

――二階堂さんが社会にそうした意識を持ち始めた理由はあるんですか?

二階堂:私の場合は沖縄で生まれ育ったのが大きいと思います。回りにいる多くの大人が政治の話をするのが当たり前だったし、そういう大人たちがみんな違う意見を持っていて、当時はすごいなって思っていたんですが。突然ですが、『主戦場』という映画をご覧になったことはありますか?

 

――もちろんです。従軍慰安婦問題について、内外の関係者や識者へのインタビューで構成したドキュメンタリーですよね。すごく面白いですよね。

二階堂:あの映画を見た時に、思想が先立つばかりに人間により添えない、という状況ってたくさんあるんだなと感じましたし、沖縄の問題とよく似たものを感じたんです。例えば、『主戦場』の中で、「嘘だ」「陰謀だ」という歴史観の話が出てくるシーンがありますよね。それが本当のところどうなのかは、その時代を生きていない私にはわかりません。

ただ基地がある地域に住む人たちは、どこかで戦争が起こるたびに、戦場に送られる人たちを見てきているんですね。彼らはやっぱりどこか精神的に不安定で、お酒を飲み歩いていろんなトラブルを起こし、それによって街の治安が乱れるという状況があったんです。私自身もそのような状況を目撃することがあった。自分の命が明日どうなるか知れないという戦場にいる兵士たちが、非道な行動に出てしまうことは想像に難くないんです。それは私が沖縄に生まれ育ったから持てた視点だと思うし、そういう場所に自分が生まれ育ったことは、自分の思考や感受性に大きく影響していると思います。

 

――つまり別の視点をもつことで、メディアが報じている事実の裏に、別の何かが見えてくると。

二階堂:映画『月』は多くの視点を描くことを大事にしている作品だと思うのですが、普通の生活の中でもそういうことってすごく重要だと思うんですよね。人間の視点って、育ってきた環境とか、与えられてきた教育とか、思想とかが、それぞれに反映されたものだと思うんですが、それをどれだけ多く持てるか。「私、こういう視点で物事を見ています」と決まっているのって、怖いことだと思うんです。だからこそ、いろんなチャンネルを持ち、様々な視点を獲得していくことを、ちゃんと意識していかなきゃいけないなと。ひとつの事件も、別の視点から見れば、「1人のモンスターが起こした事件」というようなセンセーショナルな解釈のみで終わらず、当事者として考えられるのかなと思うし、当事者として考えたいなというふうに思っています。


インタビュー前編
二階堂ふみ「社会全体が当事者と思ってほしい」重すぎる現実に答えが出せなくても>>

 
 

<INFORMATION>
『月』
10月13日公開

 

深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は“書けなくなった”元・有名作家だ。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平(オダギリジョー)と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく――。

上映時間:144分 / 製作:2023年(日本) / 配給:スターサンズ
©️2023『月』製作委員会

シャツ ¥30800/PRANK PROJECT スカート ¥37400/O'NEIL OF DUBLIN(デミルクス ビームス 新宿)

【お問い合わせ先】
PRANK PROJECT http://prank-project.com
デミルクス ビームス 新宿 tel. 03-5339-9070


撮影/榊原裕一
ヘア&メイク/渡嘉敷愛子
スタイリスト/RIKU OSHIMA
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩