母にとってすごく大事だった、オシャレすること

 

福本 たしかに病院に入ってからは表情も以前とは変わっていたし、焦点が合わなくなってきたりもしていて。口の中とか細かいケアはどうかなとか、どんな環境なのか様子もわからなくて、それは歯痒かったですね。森田先生はたくさんの人、たくさんのパターンを見てきていると思うんですけど、結局「自尊心」ってなんだと思いますか?

森田 本来は生きているってことだけで丸ごと、それだけでいいわけでしょ? だけどその尊厳を自分の中に守れなくなるんだよね。あぁ、家族に厄介者だと思われてるかな、とか。若くて元気な人だって「あ、私今このグループで厄介者かも」って思ったら落ちるでしょ。それがもう元気もなくて、お礼も満足に言えなくて、相手になにかをしてあげることもできないとしたら、やっぱり生きているだけでいい、とは思えなくなってきちゃうんだよね。だから入院が長くなったり、介護生活が長くなったときに自尊心を保ち続けられる人は少ないかもしれない。

 

福本 うん、そう考えると、お母さんはギリギリまでパジャマをちゃんとコーディネートしていて。そこにそういうものは感じたかも。

森田 そう、だからそれって大事だったんだよね。大事だったんだ。

福本 オシャレするってすごく大事ですよね。今思えば自分の在り方へのプライドとしても守っていた部分だったんだろうなって。

森田 目の焦点が合わなくなったり、意識も飛んだり、もう自分で自分を管理できなくなってきても守ろうとするプライドがあるんだよね。一方では、そのプライドを守るために、一刻も早く逝きたいと思ったり。だけど家族の寂しい、悲しい顔を見たら「元気になるからね」って言ってみたりね。だから思いはさまざまなんだよね。

介護のリアルを見つめてみて……


福本 今の話で思い出したんですけど、お父さんがお母さんを最後に看取るとき、だんだん息をしなくなってきて、それで最後に「いろいろ迷惑かけたけど、結婚して幸せだったか?」って聞いたんですって。

森田 それを聞いたんだ? 偉いね、お父さんも偉い。病院や施設などの現場にいると、そんなに恵まれた人ばっかりじゃないんだよね。介護やケアをね、数ヵ月ならできるのよ。だけどね、それを5年、10年ってやる人も当然いるわけ。

福本 そうですよね。

森田 そうするとね、どこかで大変で苦しいから早く逝ってもらえた方が楽って思っちゃう。そうなると今度は自分を責めることになってしまう。自分はなんて人間なんだって思う。そしてそのあとには、介護されている方、寝ている方も家族に対して本当に申し訳ないと思うようになる。