国道沿いをてくてく歩いていく。こっちにきてからヒールは一度も履いていない。スニーカーならば、30分くらいならなんとか歩ける。

15分ほども歩いたところで、後ろからクラクションを鳴らされ、振り返るとオレンジ色の軽自動車が停まった。運転しているのは山田さんだった。

「あれ! 絵里ちゃん!? なあに、まさか歩いてきたの!? どうして言わないの、駅まで乗っていきなよ!」

山田さんの人懐こい笑顔に、私はもう少しで泣いてしまいそうになる。せっかく友達になれたのに、へんなひとだと思われたくなくて、私は必死に涙をごまかしながら助手席に乗せてもらった。

嬉しいお誘い


山田さん:絵里ちゃん、この前はありがとね! さっそく、この前言ってた料理会が、来週水曜の11時からあるんだ。仲間の家で台所借りてやるんだけど、絵里ちゃんも行こうよ! 車で10時半に迎えにいくよ。

そんなメッセージを貰って、私はついに、この孤独な主婦生活に別れを告げられそうだった。

「うふふ~、明日はねえ、新しいお友達に誘われてお料理の会なの! なにか差し入れを持っていたほうがいいと思うんだけど、イオンでスイーツじゃつまらないよねえ。あ、ねえ彬、今日空港でさ、美味しいケーキとかあったら買ってきてよ!」

 

朝ごはんの支度をしながら、彬に嬉しい予定を自慢する。こっちにきてから、あれほどアクティブだった私が家に引きこもっていることを、彼は心配したりからかったりするのが常だ。

「おー、よかったなあ! ケーキかあ、空港にあるかなあ。っていうか料理会ってなんだ? 絵里、ぜんぜん興味ないじゃんそういうの。大丈夫? なんか無理してんじゃない?」

彬の水を差すような発言に、私はむっとして言い返した。

「誰のせいで苦労してると思ってるのよ! 東京に行けば友達いっぱいいるのに、ゼロからこの年で人間関係つくりなおそうとしてるのよ、ちょっとくらい無理しないと。彬の転勤のせいなんだから、もっと応援してよね」

「ごめんごめん、してるよ。友達ができてよかったよ。まあでもさ、友達なんて無理して作ることないし、焦らないでのんびりしたらいいじゃないの。絵里はずっと忙しかったんだし。いきなりろくに知らないひとのおうちにいかなくてもさ」

まったく人の気も知らないで! 私は、せっかくできたご縁を大事にしたい。

私はぷんぷんしながら、この話は終わりにして、朝食づくりに注力するふりをした。

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秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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