“パンツ”を身に着ける目的が変わってきている

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山本 私たちがいるファッションや美容業界は、トレンドという、変わっていく最たるものを扱っているわけですが、美容のトレンドはどのように変わってきていますか?

松本 スキンケア、エイジングケアは、より上流に意識がいくようになっていますね。シミとかシワとか表面の悩みを改善するのが下流のケアだとしたら、もっとさかのぼって、肌そのものの力を高めるのが上流ケア。最近の美容業界は、そういう研究がトレンドになってきています。もちろん若返るというのは難しいかもしれませんが、肌機能を良い状態にもっていく、というアプローチは可能。私などは、年齢的に研究がギリギリ間に合うかも、と期待しています(笑)。

 

山本 なるほど、自分が本来持つ力を引き出す、という方向に変わってきているんですね。

松本 メイクのトレンドも、「自分の骨格をどう生かすか?」といった方向に変わってきています。多様性の浸透もあって、美容も“素材を生かす”という考え方が重視されるようになっているんです。「こうメイクしておけばいい」というような一つの理想があった時代から、「自分はどうするのか?」を問われる時代に入っている、とも言えると思います。

山本 まさに、“ありのままの自分”というわけだ。

松本 そういえば、トレンドの変化と言えば、面白いのはフレグランス事情も同じように変わってきていることです。昨今は、女性っぽいとか男性ぽいとか、ジェンダーがハッキリ分からない香りのものが増えている。ジェンダーニュートラルの浸透もありつつ、人に嫌われない香りから、自分らしさを出せる香りが求められるようになってきているのかもしれません。

山本 香りといえば、かつて私は香水をつけていなかったとき、「香水をつけないのはヨーロッパではパンツをはいてないくらい失礼なことなのなのよ!」と怒られたことがありました。このひと言に象徴されるように、ファッションも香水も、人との関係の中でどう装うか? がずっと重視されていた。それが今は、リモートワークが増えてルームフレグランスも人気になってくるなど、“自分をどう気持ち良くしていくか”が大事になってきています。役割が変わってきているなあと感じますね。

松本 その“自分を気持ち良くする”には、“自分に自信を持つ”ということも含まれていると思うんですよね。先ほど、スーツを着て自分のスイッチを入れるというお話がありましたが、マスクを外して外に出たときに、堂々と人の目を見て「こんにちは」と言うには、やはり香水やスーツという“パンツ”は必要。ただ“パンツ”をはく目的が、人のためから自分のために変わってはきているんだと思います。