“ありのままの自分”を進化させていく時代へ


松本 山本さんは長くファッションに携わってこられていますが、ファッションというカルチャーにおいて一番変わったことは何でしょう?

山本 私がファッションといちばんがっぷり四つに組んでいた時代は、ブランド至上主義でした。某女性ファッション誌の若手編集者が、先輩から「ファッション編集者なら〇〇の毛皮ぐらい持っておいたほうがいいわよ」などと言われているのを目の当たりにしてきました。有名ブランドや値段の高いものが身に着ける人の価値を上げる、と信じて雑誌も作られていたんですね。

松本 私の先輩はかつて、「某ブランドのサングラスをカチューシャ変わりにして原稿を書け」と言われたことがあるそうです。それぐらい、「何」と分かるものが重視されていましたよね。

 

山本 でも今はそういったことは関係なく、ただ「アナタに似合うものを」という価値観になっている。先日も神戸に行ったら、一番賑わっていたアパレルショップは古着屋でしたからね。古着は人とかぶらないし、その店でしか出会えない一着に出会える、と。自分を喜ばせるものは高価なブランドではない、唯一無二で自分に合うもの。それが一番変わったところだと思います。

松本 だけど、やはりたまにはちょっといいものを身に着けて背伸びする、みたいな気持ちも大事にしたいですよね。本の中にも挙げているんですけど、「素敵な靴は素敵な場所に連れて行ってくれる」という言葉が私は好きで。これは、いつか仕事を頑張って憧れの場所に……というもの。等身大でありのままの自分も素敵だけど、その“ありのまま”をどう導くかは、自分の頑張り、生き方次第だと思うんですよ。そういう意味で、ちょっと背伸びしてカッコつけることも大事なんだな、と感じさせてくれた言葉でした。

山本 今は“ありのまま”から、その自分をもっと進化させたい。そういうふうに、さらに変わってきている印象があります。

松本 そうですね。後日談ですけど、彼女はその靴をメンテナンスし続けて、後にアシスタントの女性に譲ったそうです。この言葉と一緒に。素敵ですよね。私も彼女のように、上を目指していくということを、年齢を超えてやっていけたらいいな、と思っています。
 

松本知登世
ビューティエディター、ライター。1964年鳥取県生まれ。 大学卒業後、航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。 その後、講談社「Grazia」編集部専属エディターなどを経てフリーランスに。美容や人物インタビューを中心に活動。近著『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』( 講談社)ほか、著書多数。

山本晃弘
服飾ジャーナリスト。『メンズクラブ』『GQジャパン』などを経て、2008年に編集長として『アエラスタイルマガジン』を創刊。現在は、エグゼクティブエディター 兼 WEB編集長を務めている。2019年にヤマモトカンパニーを設立し、編集、執筆、コンサルティングを行う。また、ビジネスマンや就活生に着こなしを指南する「服育」アドバイザーとしても活動中。執筆著書に『仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。』がある。


 取材/山本奈緒子
撮影・構成/藤本容子