執筆中は洗面器に顔をつけている状態


──小説とエッセイ、どっちを書くのが好きですか。

板倉:書いてみて本当に各々の大変さがわかりましたね。小説は完成までが長いんで、書き始めたら年単位のスケジュールで自分を拘束することになる。作品って書き始めたらもうずっと洗面器に顔つけてるみたいな感じ。完成したときにようやく顔を上げて、呼吸できる。今回のエッセイなんかは短編なんで、一篇書いたら息が吸えるというか。それが小刻みにできましたよね。ぱっと洗面器に顔をつけて、ちょっと苦しい思いして、 また息が吸えるみたいな。そういう意味では特に『蟻地獄』(リトルモア)は本当に大変でしたね。2年半ぐらいかかって。いつか書くのも速くなるもんだと思って書いてましたけどね。

──著作もかなりの数になって、芸人でありながらもうベテラン作家みたいになってきてますよね。

板倉:いやいや全然ですよ。がっつり売れてくれないとなかなか。

 

──漫画化や舞台化されたものもありますよね。

板倉:そうなんです。やっぱり小説だけで終わっちゃうと、なかなか厳しい。小説自体にすごく売れてほしいけど、文章を読む人は減ってるでしょうしね。これだけいろいろ動画で観られる時代ですから。

あと、芸人が書く小説じゃなくて、ちゃんとした小説としての文章を書いていこうと思ったので、『蟻地獄』の執筆はめちゃめちゃ時間がかかって。大体の費やした時間で時給換算したら463円だったんですよね。やっぱ物作りで食べるって、甘くねえよなって思いましたね。それに、初めはWordはもちろん、PCの使い方もわからなくて。そこからWordを使えるようになったんですけど。

 

──書き手になってからPCを使い始めたんですね。

板倉:大学ノートにボールペンで書いていたんです。編集さんに出せるレベルじゃなくても、ある程度溜まったら出そうと思って溜めていたんです。でもノートだとさすがに、推敲して訂正するともう自分で読んでもよくわかんないぐらい、ぐちゃぐちゃになっちゃう。その話を周りにしたら、「もうそれは仮に1年出版が遅れたとしても、PCを覚えた方がいい」って言われて。