「お客様! お客様!」

CAがギャレーから飛び出してきて、機内電話に飛びつく。

「機長! 先ほどラバ(化粧室)で眩暈を起こされて倒れたお客様、呼吸困難です! 機内にドクターコールはしましたが……お申し出がありません。緊急着陸を要請します」

ほどなくして、飛行機の先頭、コックピットからパイロットの1人が飛び出してきた。

「どうして急にこうなった!? 貧血のようだと言っていたじゃないか。持病は?」

CAたちは、泣きそうな様子で首を振る。

「わかりません……! ラバで大きな物音がして、お声がけしたあと、外から鍵を開けて搬出しました。その時点では意識レベルは低いものの、受け答えはできたんです。ただ、持病を伺うまえに意識がなくなりました。名前はデイビッド・オコナー様、座席は15のチャーリー、10歳と5歳のお子様をお連れのお父様です。お子様にはまだ知らせず、今、エイミーがついています」

15列のチャーリー。飛行機のクルーは聞き間違いを防ぐため、アルファベットを、その文字を頭文字にした独特のコードで呼ぶことは本で読んで知っていた。15のチャーリー、つまりC席。私の4列前。

――あのお父さんだ!

 

考えるより前に、私の体は動き、ギャレーのカーテンを開けた。

「お客様! 急病人です、ギャレーの中に入らないで!」

CAが鋭く声をかけてきた。私は手で制して、英語ではっきりと言った。

「救命の心得があります。手当させてください」

CAはその言葉をきいたとたん、目を輝かせて私を招き入れた。

やっぱり、さっきの「お父さん」だ。床に薄いマットを敷いて、寝かされている。全身が細かく痙攣していた。駆け寄ってシャツをはだけ、気道を確保するが、呼吸状態が極めて悪い。

「機内の救急セットは!?」