女性認識と男性認識は表裏一体

報道の仕事で多忙を極める40代前半のこと。右も左もわからない大学生のアシスタントとしてテレビの世界に入り、報道の現場でさまざまな取材を重ねるうちに、「さまざまな事象をどこまで理解して自分の言葉にできているのか」という思いがどんどん大きくなっていったという安藤さん。そこで、一念発起して大学院で学びなおすことを決意します。生放送のニュース番組と、大学院生という二足のわらじは予想以上に大変で、修士課程3年、博士課程5年、博士論文書きにさらに4年と、足掛け12年の院生生活を送ることになりました。

「社会学で修士をもらったんですけど、続く博士課程の研究テーマはどちらかというと社会政治学に近くて、女性議員と政治でした。研究で行き当たったのが、どんなに男女平等の制度が整備されても、それを運用する人たちの意識が変わらない限り、その制度は絵に描いた餅、ということです」

報道の現場に身を置き、国会議員に女性が極めて少ないことは常々感じていたという安藤さん。その数少ない女性も、世襲議員、元スポーツ選手や文化人で知名度がある人など、“特殊な人”が大半なのが現状。果たしてそれで、普通の人たちの立場に思いを馳せることができるのか、という疑問があったといいます。

「男女平等の制度を作ろうとしても、法律を作る立法機関である国会に女性が極めて少ないという矛盾。そこで、女性議員と政治について研究することにしたんです。社会で女性に向けられる視線のことを、“女性認識”と私は呼ぶのですが、『女は前に出ない』『女は家庭を守るべき』という認識は、もともと日本にあったものではなく、戦後自民党の政党戦略として、その価値観が植え付けられていったことに気づきました」

 

こうした研究の成果は博士論文としてまとめられ、『自民党の女性認識――「イエ中心主義」の政治指向』という本にもなりました。先日、また重版が決まり、今も読まれ続けています。

「女性認識やジェンダーの問題を論じると、『女性の問題であり、女性が解決すべき』と言われるのですが、そうじゃないし、そう思っているうちは未来永劫解決しない。女性認識と男性認識は表裏一体で、女性はこうあるべきの一方で、男性はこうあるべき、も必ずセットになっているんです。男はちゃんと稼いで妻子を養ってなんぼ、という価値観に苦しんでいる男性もいます。こうした垣根を取っ払って、みんなで生きづらさを解消していくものじゃないかと思っています」

 


さまざまな要人を取材してきた経験を活かし、自民党議員をはじめとする、さまざまな当事者に取材をして研究を続けてきた安藤さん。

「取材の経験が活かせたのも、女性認識の根深さを発信できるのも、私がキャスターという仕事をやってきたから。私を指導してくれた教授たちにも、『あなたは発信力があるんだから、研究しながら発信し続けてね』と言われています。いま、女子大で教鞭をとっているので、教えながら自分の研究も続けています。それこそ、『政治家に立候補しませんか?』というお声がけはいただきますが、私は研究者なので、今の立ち位置が気に入っています」