自信もプライドもない、だからこそ吸収できる

前川:「清ちゃん歌どうなの」って聞かれたから、「最近あんま売れてないんですよね」と答えたら、「だったらさ、今、みんなは清ちゃんの歌を聞きたくないんだよ。それより皆さんに喜んでもらえるんだったら、コントでお笑いをやっていけばいいんじゃないの」と言われ、バラエティー番組に出るようになったり。坂本龍一さんとお会いして『雪列車』というソロデビュー曲を書いていただいたり。そして福山雅治さんに、『ひまわり』という曲を作っていただいたのも、ご縁です。

自分の歌い方っていうのはずっと変わらないんですけど、その歌い方で福山さんの前で歌ったら、「前川さん、それはやめてください」と言われたんです。え、僕、今まで何十年間もこの歌い方でやってきたのに、どうすればいいのと思いましたね。もう助けて、みたいな。

 

前川:「前川さん、揺さぶるんじゃなくて、ストレートに歌って」と言われるんです。ストレートに歌ったら僕じゃないと思いつつも、福山さんの言うことを聞いて、歌った。出来たものをいざ聞いてみると「えぇ、そうか、こうなるのか」とびっくりしました。すごく良かった。

 

——大ベテランなのに、後輩のアドバイスを素直に実践できるなんて本当にすごいです。自信がないとおっしゃっていましたが、だからこそ、プライドが邪魔することもない、というのもあるのかもしれませんね。

前川:昔ながらの大御所だったら、「俺になんてこと言うんだ」って、なっていたのかもしれませんね。でも僕は、「はい! わかりました」って感じですよ。福山さんにしても坂本龍一さんにしても、僕の中に何を言われても受け止めるような適当な部分や雰囲気があったから、突っ込んでいただいたんじゃないかな。笑いでいうとツッコミとボケみたいな。僕にボケの部分がちょこっとあったのかもしれません

自分では変わることができなかったのに、そういう歌い方もやれた、新しい自分が引き出された。それもまた一つの縁ですよね。そういういろんな縁によって、自分の歌い方も幅も広がった。よく考えたら、この55年間の間に、あれを掴んでなかったら僕はなかったよなと思うことばかり。振り返ってみるとやっぱり努力なんかじゃなくて、縁というか、運がいいというのはあったのかなと思います。

 
取材・文/ヒオカ
撮影/柏原力