多くの人が感じているはずの不安に、いつまでも蓋をし続けることはできないと

 

――今回は主演だけでなく、プロデューサーも務められた経緯やご感想を教えてください。
 
最初は電車の中でプロデューサーの松橋さんと話したのがきっかけです。普段からこれからの日本や世界の未来について話したりするのですが、「『沈黙の艦隊』、いつか映画化したいね」と。でもその時は映画『キングダム』の撮影中だったので実現に向けてすぐに動くことはできませんでした。その後半年以上たって、本気で動き出そうか、ということで制作サイドとして打ち合わせをスタートさせました。

実現には問題が山積みで映画化は難しいかと感じていたんですが、この時代背景が後押しとなったのか、あれよあれよと多方面から協力をいただくことができて巨大なプロジェクトになっていくのを目の当たりにしました。漫画の連載は30年前ですが、内容は今の時代に通じるもの、今だからこそむしろ実現できた映画だと思っています。

 


――迫力ある潜水艦の戦闘シーンも多く映画化の実現には防衛省、海上自衛隊の協力が不可欠で大沢さんご自身で防衛省、海上自衛隊に交渉されたと伺っています。政府機関との交渉は実際のところかなり大変だったかと思います。何が彼らの気持ちを動かしたと思われますか。

僕の言葉が動かした、というよりは「協力していただいた」というのが正確なところです。自衛官が自衛隊を裏切って、ある意味テロ活動を始めるといった話ですし、核問題もテーマの一つということで、タブーに触れることが多く、規模も大きいので普通は無理だろう……と思いながらも色々アプローチしたところ、最終的にご協力いただけることになりました。


――過激な行動とはいえ、主人公・海江田の目的が平和だったからでしょうか。

 

「平和」というのはイメージはおぼろげにあるけれど、実際は何をもって平和とするのか、は難しい。俳優やプロデューサーとしての立場というよりも一人の日本人として日本の未来を考えた時、子供たちが安全な未来を生きていけるのか、問題があるのではないか、とみんなが不安な思いを抱えているし、その問題に触れてはいけないような雰囲気がある。でも、いつまでも蓋をし続けられない時にさしかかっているんじゃないかと思って、その話をしました。映画で何かが解決するとは思わないけれど、きっかけになるのではないか、と。


――大沢さんが演じた海江田という人物の魅力と30年前の原作を映画化するにあたって工夫した点があれば教えてください。

原作の海江田はもっと顔が四角くていかにも正義の味方なので「僕のイメージと違うな」とは思っていました(笑)。特に彼を魅力的な人物として演じたつもりはないんです。なぜかというと、原作だと海江田は正しい、正義を貫く男、という印象ですが、別の角度から見ると彼はテロリストであり、犯罪者なんですよね。

原作が生まれた30年前と比べて今は善悪などの価値観も、正義の味方の定義も変わっているから、全てが正しい人よりも欠点をさらけだしている人のほうが魅力的だし、極悪人が主人公で世の中を変えていくという切り口のほうが面白いと思うと提案しました。

空気を読まず勝手に突っ走る主人公が周りの人を揺さぶり、その周りの人たちが葛藤し、混乱し、解決して成長していく。普通は主人公の成長物語だけど今はもう令和だし、そういう形も面白いんじゃないかと思いました。お客さんは深町(暴走する「やまと」を追う、戦艦「たつなみ」艦長)や、政府側の気持ちで見てくれるほうが今の時代らしいと思ったんです。