境界線

「君、高校生? そのスーツ、着るように言われたの? 指示役に」

オレがそんな質問をしてくると思わなかったのだろう、彼はぎょっとしたふうにこちらを見た。

「いや、コレ、ただのバイトで。宅配便みたいなもんだって言われて。受け取って、ロッカーに入れておけって」

「スーツ着て? 偽名名乗って、老人から金目のもの受け取れって言われた? うすうすわかってるんだろ、それ闇バイトだよ」

 

「……普通にバイトの求人サイトから見つけた、ちゃんとしたやつです」

「求人サイトでも、巧妙にダミー会社で掲載してさ、応募したらやばいバイトだったって結構あるんだよな。『超高収入』『副業で金持ち』『1日10万円以上可』『履歴書や口座番号不要・当日現金払い』とかとにかく美味しいこと書いてなかった? それでいて、見慣れないアプリで保険証とか学生証の写真は送れって言われなかった?」

「……口座がないと、給料振り込めないからって……代わりに会社が一括で作るために保険証が必要だって」

オレはあんぱんを取りだして、大口を開けてかぶりついた。

 

「ダメだそりゃ。な、お前さ、あと5分で小島さんとやらが出てきて、なんか受け取るつもりだろ。言っとくけどな、それやったら、お前の人生は終わりだよ」

少年は困ったような、焦ったような、ふてくされたような表情でこちらをにらんだ。

「あんただって、さっきから偉そうにしてるけど、こそこそ、なんか人に言えないようなことしてるよね? 同じじゃん。それに……もう実家の住所もバレちゃってるし、今さらやめられない」

「あほかお前。今ならお前、ただの被害者。だけどな、犯罪の片棒担いだ瞬間、立派な加害者なんだよ。その違いくらいわかってから社会に出るんだな。それとな、オレはちゃんとプロとしてこの仕事してんだよ。一緒にすんな」