画面には映されない、弱くて不利な幽霊の正体


女性といっても一色ではありませんよね。日本の働く女性の大半は非正規雇用で、収入も高くはありません。同じ職業とみなされている女性たちの中にも格差があり、より弱い立場、不利な立場に立たされる人たちがいます。アナウンサーも同様です。

「女子アナじゃなくてよかった!」「女子アナ妻ならうまく立ち回ったのに」都合のよすぎる「嫌な女」ファンタジーの正体【小島慶子】_img0
写真:Shutterstock

フリーアナが増加したのは、規制緩和で非正規雇用で働く人、中でも女性の非正規労働者が増えた2000年代以降の世の中の動きと連動しています。テレビ局でもBS・CS放送でチャンネル数が増加し、より安価で柔軟に使える(要らなくなったら切り捨てることができる)人材を起用するようになりました。また、同じ放送局で働いていても、正社員のアナウンサーと契約社員のアナウンサーでは同じ仕事内容でも待遇が違います。アナウンサーと呼ばれる人たちの中にも様々な雇用形態の、異なる待遇の人たちがいるのです。

さっきまで画面でニコニコ喋っていた女性が、来季は仕事がないかもしれない、2年後のキャリアが描けないと、トイレで泣いていることもあるのです。そして弱い立場の人ほど、ハラスメントの被害に遭いやすく、守ってくれる人もいません。
 

 


最近では、愛媛県松山市のあいテレビで放送されていた番組で共演の男性タレントらからセクハラを受けて降板したフリーアナウンサーの女性が、人権侵害だとしてBPOに審理を申請したケースがあります。BPOの放送人権委員会が下した結論は、人権侵害とは言えないという内容でした。勇気を出して訴え出た女性ではなく、放送局側に理解を示すものだったのです。この結論に対しては、元委員の林香里氏(東京大学理事・副学長 東京大学大学院情報学環教授)から厳しい批判の声が上がっています。職場でのセクハラを受け流すしかない状況は多くの女性たちに共通するもので、それが看過されてきたこと自体が問題であり、加えて女性の非正規雇用者に対する蔑視や構造的な差別という問題がある。この事案もその表れではないかという指摘は、“女子アナ”の幽霊に取り憑かれた人たちが何を見落としているのかを明らかにしています。

除霊しましょう。あなたに取り憑いた幽霊、嫌な女の典型的イメージを頭の中から追い出すのです。居座る幽霊に向かって叫ぶ呪文は「あんた、誰の妄想なの? 女をバカにすんな!」です。消えるまで、叫んでください。そして次に幽霊に出会ったときには、“女子アナ”ではなくて、それをしつこく物語る語り手に注目してください。そいつの正体を見抜くことが、あなたの頭と世の中を健やかに保つ秘訣です。
 

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