11月1日は犬の日です。社団法人ペットフード協会により制定された記念日で、犬の鳴き声である「ワン(1)ワン(1)ワン(1)」にちなみ、この日に決められました。
犬と人間の関わりはとても長く、最も古くに家畜化された動物のひとつが犬なのだそうです。長い歴史のなかで、犬は常に人に寄り添ってきたんですね。
そして、人と寄り添う犬といえば、真っ先に思い浮かぶのが盲導犬です。
盲導犬の歴史については、公益財団法人 日本盲導犬協会webサイト「盲導犬の歴史」などに詳しく載っていますが、その登場は意外に古く、古代都市ポンペイの遺跡で発見された壁画に、目の不自由な人と一緒に歩く犬の姿が描かれているそうです。

また13世紀の中国の絵巻物や、17世紀のオランダの書物にも、視覚障害者らしき人物が犬を連れている様子が描かれているのだとか。
人と暮らす犬が飼い主を助ける姿は、こんなにもはるか昔から記録に残されているという事実に、驚きを覚えます。

そして、現代のような盲導犬の育成がはじまったのは、第一次世界大戦の頃。1916年、ドイツで世界初となる盲導犬訓練学校が設立されました。
日本では、1939(昭和13)年にドイツから4頭のシェパードが初の盲導犬としてやってきています。また、1957(昭和32)年に、ジャーマン・シェパード犬のチャンピィを盲導犬として訓練することに成功、その所有者が国産第一号の盲導犬ユーザーとなりました。

現在では、盲導犬の存在も広く知られ、その活躍がテレビや書籍で取り上げられることも増えました。実際に、街中で盲導犬を目にしたことがある方も多いでしょう。
しかし、盲導犬が役目を終え、引退したあとについては、あまり知られていないのではないでしょうか?

盲導犬の引退後って、考えたことありますか?

 


盲導犬は引退したら、どうなるのでしょう?
実は、盲導犬は、だいたい10歳くらいで引退します。では、引退した盲導犬は、誰が面倒を見て、どんな暮らしをしているのでしょう?
盲導犬は、健康管理に気をつけて育てられているので、一般のペットより長生きするといわれています。病気や事故がなければ10歳前後で引退し、その後も平均して5年は生きるのだそう。

引退後は、ユーザーさん(視覚障害者)が飼育されるケースもありますが、たいていは、盲導犬の育成施設に戻されてしまいます。
しかし、人に寄り添って暮らしてきた盲導犬にとっては、一般家庭で家族の一員として暮らすのが一番の幸せなのだそう。ですから、訓練所が条件の合う引退犬飼育ボランティアを探し、引退犬は引き取られて行くのです。

引退犬って飼うのは簡単?大変?


引退犬を引き取るには、室内で飼育できる、留守の時間が少ないなどの基本条件を満たしたうえで、引退犬飼育ボランティアに申し込む必要があります。
盲導犬として活動していた犬なら、しつけもできているし、飼いやすいと思う方も多いでしょう。たしかに、人を支援するよう訓練され、性格も穏やかな盲導犬は、引退後も命ある限り人に寄り添い、私たちを幸せにしてくれます。

しかし、10歳前後の引退犬は人間で言えば70歳。飼育ボランティアは、引き取った犬の看取りまでを、責任を持って行う必要があるのも事実です。
それでも、引退犬との暮らしは、飼育ボランティアにとって喜びと感動をもたらしてくれます。辛い別れを経てもなお、新しい引退犬を迎える人々が多くいるのです。
このたび刊行された『盲導犬引退物語』では、そんな引退犬たちと、彼らをひきとった人たちの実話が描かれています。

『盲導犬引退物語』より 大庭賢哉/絵

関節炎が原因で盲導犬を引退したラブラドールのグレッグ。初めは犬が苦手だったボランティアの家族も、グレッグの介護を通して愛情を深めていき、グレッグが亡くなったあとも、新たな引退犬を迎えました。
拒食症の少女に寄り添い生涯を終えた引退犬・バルダのエピソードには、犬と人が支え合う絆の強さを感じさせられます。
また、盲導犬となる子犬を育てるボランティア「パピーウォーカー」を行なっている家族が、育てた犬の最後まで見届けたいと12匹もの引退犬を引き取り続けている逸話なども収録されています。

引き取られた引退犬のドリー(13歳)、ニース(12歳)、クインター(14歳)。三匹は仲良く暮らしている

この本の著者、沢田俊子さんはあとがきで
「盲導犬として、訓練を受けた犬たちは、引退した後も人の心をいやし、はげまし、命の尊さを教えてくれます」
「そのまなざしは、死の間際にあってもやさしく、どこまでも人間への信頼にあふれるものでした」

と語ります。
現在、全国で活躍している盲導犬の数は928頭。(2019年3月1日現在、厚生労働省)
彼らもやがて、引退していく日を迎えます

11月1日の「犬の日」、そしてこの『盲導犬引退物語』をきっかけに、ぜひ盲導犬の引退後について、考えてみてはいかがでしょうか。

ためし読みをぜひチェック!
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沢田俊子(さわだとしこ)
京都府生まれ。ノンフィクションから童話まで小学校初級から中級向けの作品を中心に幅広く執筆している。『盲導犬不合格物語』(学研教育出版)で、第52回産経児童出版文化賞を受賞。(同書は、加筆・修正のうえ講談社青い鳥文庫にも収録)。ほかのおもな作品に『目の見えない子ねこ、どろっぷ』(講談社)、『命の重さはみな同じ』『助かった命と、助からなかった命』(いずれも学研教育出版)などがある。日本ペンクラブ会員。日本児童文芸家協会会員。

 

『盲導犬引退物語』
沢田俊子/文 大庭賢哉/絵


学校でいじめられていた女の子に寄り添ったバルダ/犬嫌いな家族をかえたグレッグ/引退した犬を順番に12頭も引き取った人の話、など5つのエピソードを1冊に。命ある限り人に寄り添い、幸せにしてくれる引退犬たち、そして引退犬とくらす人たちの、本当にあった感動の物語。
 

構成/北澤智子