ミモレコンセプトディレクターの大草直子と美容ジャーナリストの安倍佐和子が、今知っておきたい流行を独自の視点で分析して、紹介する連載がスタート。第1回、ファッション編でフィーチャーするのは、「サステナブル」。“持続可能な”という意味で、自然環境の維持に役立つ事業や開発、自然環境に配慮した行動を指します。大草視点で、この言葉を読み解いていきます! 


すでに多くの企業やブランドが垣根を越えて取り組んでいる


ファッションに限ったことではないのですが、今後間違いなく大きなテーマになってくるのが「サステナブル」。ファッション業界は環境を圧迫している業界の第2位とも言われており、ファッションがサステナビリティを積極的に牽引していかなくてはいけないと思っています。

昨年の秋にグッチやバレンシアなどを擁するケリンググループが、ブランドや企業の枠を超えて、気候変動、生物多様性、海洋保護の3分野での目標達成のための「ファッション協定」を主導して始めました。その協定には、H&Mやシャネル、エルメス、ナイキなども署名しています。同じく協定に署名しているZARAなどを抱える「インディテックス」は、2025年までにすべての素材をサステナブルなものにすると宣言しているんです。世界中に展開しているブランドだからこそ、達成できれば影響が大きいですよね。

サステナブルなファッションに取り組んでいる企業は、海外だけではなく、日本でも努力している企業やブランドはたくさんあります。

たとえば「ファーストリテイリング」。最新のテクノロジーの力を借りて、サステナブルな商品の開発を積極的に進めていますよね。すでに店頭に並んでいるものでいえば、「ユニクロ」のデニム。製造過程で使用する水の量を平均で90%削減しているんだそう。

「サステナブル」は重要。でもおしゃれの自由と責任の視点を忘れないで【大草直子】_img1
 
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ユニクロのジーンズは作る工程で水の使用量を減らすため、レーザーによるウォッシュ加工を導入。またウォッシュ加工でも、使用する石を天然石から半永久的に使える人工石の「エコストーン」にシフト。天然石の採掘が不要になった上に、排水に含まれる軽石の成分も減ったことで、環境負荷を軽減された。


また「カーサフライン」は2018年のブランドデビューしたときから、サステナブルやリユースなどを掲げていました。環境負荷が少ない素材を取り入れたり、余った素材で新商品を作ったり、在庫商品をリメイクして再販したり……地球にも人にも優しいモノづくりにこだわっています。

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カーサフラインは、生産者の想い、地球環境に配慮した哲学のある商品を届けることをコンセプトにしたセレクトショップ。自然と調和するファッションを提案している。 


サステナブルなファッションをいち早く掲げていたブランドといえば「ステラマッカートニー」。裏地や靴の接着剤など、細かなところまで徹底してサステナビリティを追求しています。またアメリカの「エバーレーン」も製造過程や価格設定の透明性をブランドのポリシーにもって取り組んでいるアパレル企業ですよね。

商品に使われている素材や製造過程での環境負荷を改善することも大切ですが、そこで働く人たちの環境が整備されていること、製造から手元に届くまでのプロセスがエシカルであることも重要です。

ファッション業界の中でも、原料の流通や生産過程の不透明性を指摘されることが多いのが、実はジュエリー業界なんです。でも、商品が生まれてくるまでの過程もクリアにしているブランドもあります。たとえば、「フォーエバーマーク」のダイヤモンドは、採掘から完成品まで全ての工程でエシカルであることを掲げています。

またレザー商品も製造過程のタンニング(なめし)作業で化学薬品を使うことが多く、そこで働く方たちは目も当てられないくらいに手が荒れてしまうことが問題視されています。改善に取り組んでいるブランドのひとつが「ザネラート」。独自に開発した“ナチュラルタンニング”を用いることで、働く人にも環境にも優しいサステナブルなレザーで製品を私たちに届けてくれています。

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ザネラートの独自に開発されたナチュラルタンニング技術によって生まれた、まったく新しいレザー「PURA」のバッグ。環境にも職人にも悪影響のある金属は一切使わずに、自然由来のものだけでタンニングしている 


すべての商品、製造工程で完璧に切り替えるのは、今すぐには難しいとしても、あるラインだけ、ある工程だけサステナブルな取り組みを始めているブランドはたくさんあります。

“物を売る”ということはブランドのメッセージを伝えること。少しずつ切り替えていくことで、メッセージを伝えることは大切なのかなと。

今はまだサステナブルであるというだけで注目を集めていますが、それが当たり前なことになるように、消費者側も意識を変えていかなくてはいけないんですよね。まずは商品を手にしたときに「この素材はどこから来たのかな?」「どういう工場で作られたかな?」「化学繊維はどれくらい入っているのかな?」とかを考えるだけでも違います。一時のブームで終わらず、ずっと続いていくように意識の中に私もつねに持っていたいと思っています。

 


いまある物を大切に長く使うのもサステナブル


これから新たに手にするものは、できるだけ素材や製造過程で環境負荷の少ないものを選びたいと思いますが、決して今まで使っていたものをすべて否定するべきではないとも思っています。

イギリスのエリザベス女王が「今後ファーのアイテムを新調することはない。ただしすでに持っているものは使います」と言ったとニュースになっていましたよね。この意見にすごく賛成しているんです。すでに持っているものは大切に使う、というのは廃棄するものを減らすこと。すでにあるものを大事に着ていて、たとえば私だったら娘に引き継いだり。できるだけ「捨てないクローゼットを考える」こともサステナブルのひとつの方法だなと思っています。
 
私自身、忘れないようにしようと思っていますが、サステナブルに向かうことは必要だけれども、すべての人に自分の判断と自分の責任で自由におしゃれを楽しむ権利がある、ということ。

エリザベス女王がファーを新調しない、と宣言しなくてはいけなかったように、過去に買ったものを大切に着ていたとしても、ファーを着ているだけで非難されたり、叩かれることがあります。でも、フェイクファーが地球環境にいいかといえば、自然に分解されることのないケミカルなものもあるわけです。

「オーガニックな素材」といっても国によっても基準はかなり違います。どれかひとつが正解とも言えないし、ひと口にサステナブルといっても、いろいろな考え方があるということは知っておかなくてはいけないと思っています。


取材・文/幸山梨奈
構成/川端里恵(編集部)