寝たきりの母親を置いて長時間外出するわけにもいかず、村田さんの行動には当然ながら制約がかかります。さらに、高齢者の親子にとって、家の中にも困難が待ち受けていました。

「トイレに連れて行くのが一番大変。わたし40代じゃないのよ。70代よ。そのわたしが90代の母を引きずって、トイレまで行く。トイレにたどり着くまでに、私のほうが倒れそうになる。母の体重が軽くなったとはいえ、力が抜けている人の体は重いのよ」

老女二人で真夜中の廊下にへたり込むとき、悲しくなり涙が止まらなかったと村田さんは語るが、これが老老介護の現実だろう。

老いた自分が老いた母親の介護をすることも大変だが、老いて生きなくてはならない母親のほうも大変だろう。このことを考えると、頭の中が出口のないトンネル状態になる。

 

7年間の介護の末に、村田さんの母親は99歳で他界。「ほっとしたと村田さんは語った。そう、ほっとしたのは母親も同じはずだ」と松原さん。しかし、今回のエピソードは、シングル女性の村田さんだけに起こり得た悲劇ではありません。
内閣府が発表した「平成30年版高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる世帯の中で、夫婦のみ世帯と単独世帯が全体の半数を占めており、65歳以上の高齢者のひとり暮らしは、大幅な増加傾向にあるといいます。つまり、「ひとり暮らし介護」は誰にでも起こりうることなのです。

 

わたしの友人たちはひとり者が多い。そのせいか、よく、友人たちが集まると、「100歳まで生きたくないわね」という話になる。100歳までもどこまでも、どんな状態でも生きたい人もいるが、わたしは正直、そういう気持ちにはなれない。

「体の限界だ。もう、これで十分。我が人生悔いなし」と思うときが来たとき、死なせてほしいと思っている。これは本音だ。安楽死は問題が多すぎるが、いい方法はないものかと、いつも考えている。

幸せは個人により違う。幸せはこういうものだと決めつけることはできない。自分が幸せだと感じることだけが、幸せの真実ではないだろうか。


人生100年時代の課題について、当事者意識をもって考えるきっかけを与えてくれる本書。ひとり暮らしする高齢者の事例を知るごとに、松原さんが語る「自分の老いは、自分で対応する時代がそこまできている」ことを、実感せずにはいられません。本書は、そんな時代を生きる私たちがどのように「老い」という未来への歩みを進めていくべきなのか、誰しもが直面するであろう現実と、不安を吹き飛ばす力強いヒントを教えてくれる一冊です。
 

著者プロフィール
松原惇子さん:
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジにて、カウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3 作目の『クロワッサン症候群』(文藝春秋)はベストセラーとなる。女性ひとりの生き方をテーマに執筆、講演活動を行っており、1998年には、おひとりさまの終活を応援する団体、NPO法人SSS(スリーエス)ネットワークを立ち上げる。著書に『老後ひとりぼっち』『長生き地獄』『孤独こそ最高の老後』(SB新書)、『老後はひとりがいちばん』(海竜社)ほか多数。

 

『ひとりで老いるということ』
著者:松原惇子 SBクリエイティブ 860円(税別)

みじめな90歳にならないために何をすべきか? たくさんの高齢者を取材してきた著者が伝えるのは、老いることを恐れないための知恵と、思わず心が軽くなる飾らない言葉たち。今を楽しむこと、賢く備えること、おしゃれを忘れないことなど、ひとりでも老後を前向きに生きるための、具体的なアイデアが満載です。


構成/金澤英恵
この記事は2021年2月3日に配信したものです。mi-molletで人気だったため再掲載しております。

 

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