認知症のように研究がとても盛んな領域というのは、注意が必要な領域でもあります。研究が盛んな領域は、それだけ関心が高いので、お金にも結びつきやすいのです。だからこそ、科学に不誠実なビジネスも数多く生まれてしまいます。

日本国内でも、認知機能トレーニングとして「〇〇式」などと謳い、「認知症予防に有効」などと書いて、独自の方式を提唱する書籍などが目立ちます。もちろんある個人に有効な可能性もないわけではないですが、全く無効な可能性もあります。少なくとも、そこに科学的根拠があるわけではないからです。

医師個人の経験に基づく「多くの患者さんに有効であった」は残念ながら、研究で証明されたそれと比べて、真実からはだいぶ遠いところにあります。現場の医師が言っているのだから真実に一番近いように思われるかもしれませんが、実際には全く逆なのです。

なぜなら、個人の「有効であった」は、自然によくなったのかもしれないし、偶然だったのかもしれないし、はたまたその〇〇式とは全く別の要因で良くなったのかもしれず、全く〇〇式による改善を保証するものではないからです。

これらはあなたが○○式を試すのを止めるものではありませんが、過信は禁物です。少なくとも、あなたに偶然有効だったからといって「これは効くよ」と友達に胸を張って勧められるものではありません。

どの時期にどのような認知機能トレーニングが有効なのか、ここにはまだまだ研究の余地があると思います。

 


認知症リスクの4割は修正できる可能性も


最後に、医学誌「ランセット」に掲載された、認知症予防の全体像をここでご覧いただこうと思います。現在の認知症予防としてなんとなく「こんなことがこんなタイミングで有効かもしれない」というところの概観がお分かりいただけるのではないかと思います。

参考文献2を参考に作成

上記のように、現状では認知症リスクのうちの4割ぐらいは、もしかすると、これまで紹介してきたような取り組みによって変えられ、認知症予防につながる可能性があるのではないかと考えられています(参考文献2)。若い頃の教育の充実や、中年期の高血圧治療、節酒、ダイエットなどです。

一つ一つは小さなインパクトかもしれませんが、積み重ねていくと大きな効果を生むかもしれません。また、これらの予防法は、仮に認知症に有効でないとしても、心臓や血管の健康につながるものも多く含まれていますので、ぜひ頭に入れておいていただくと良いと思います。
 


前回記事「認知症の新薬登場に世界が注目。懸念は副作用と高額な費用」はこちら>>


参考文献
1    Wais PE, Arioli M, Anguera-Singla R, Gazzaley A. Virtual reality video game improves high-fidelity memory in older adults. Sci Rep 2021; 11: 2552.
2    Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet 2020; 396: 413–46.

 

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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