コレステロールの薬は数年後のリスクを下げる


このような状況は、次のような理由で起こることがわかっています。一つは、慢性疾患の治療では薬の有効性が見えにくく、過小評価されてしまうこと。逆に、副作用が過大評価されてしまうこと。長期に渡って飲まなければならない中でかかってくる薬のコスト (参考文献2) の問題。そして、薬の減量などに伴って「薬を半分に割る」などの煩わしさが生じ、飲まなくなってしまうこと(参考文献3)

こうした理由で薬が不適切にやめられてしまう状況を避けるため、医療者側も工夫しています。例えば、START基準というチェックリストが考案されるなど、医療者が患者さんへの処方箋に抜けがないかを確認しやすいようなツールが医療現場で活用されています(参考文献4)

逆に薬を飲む立場、患者さんの立場としては、基本的に「薬の効果は実感しにくい」ということへの理解が必要です。例えば、コレステロールの薬は、コレステロール値を低下させ、結果として数年後に自分が心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクを大幅に低下させてくれる大きな効果を持つ薬です。

 

しかし、薬を飲んでいても、「元気になった」「体調が回復した」というような体調で感じられる効果があるわけではないというのがポイントです。「薬を飲んでも体調が全然良くならない」と考えているとしたら、それは薬が実際に持つ効果と薬への期待が大きく乖離してしまっています。

 

コレステロールの薬を飲むことは、将来の自分を守るための投資なのです。このため「今の自分」に焦点を当ててしまうと、その効果を見誤ってしまいます。むしろ、筋肉痛といった副作用ばかりに注意が向いてリスクを過大評価し、効果は過小評価してしまって、正しい天秤が崩れてしまうのです。

こういったことを防ぐためにも、自分の飲む薬がどのような効果を期待されて処方されているのかをしっかり理解しておくことが大切です。もし理解が不十分だと感じられれば、処方医としっかりとコミュニケーションをとり、理解を深めることが大切です。
 


前回記事「薬手帳も忘れずに。薬の飲み方はチームプレーで工夫しよう【医師・山田悠史】」はこちら>>


参考文献
1    Steinman MA, Seth Landefeld C, Rosenthal GE, Berthenthal D, Sen S, Kaboli PJ. Polypharmacy and prescribing quality in older people. J Am Geriatr Soc 2006; 54: 1516–23.
2    Soumerai SB, Pierre-Jacques M, Zhang F, et al. Cost-related medication nonadherence among elderly and disabled medicare beneficiaries: a national survey 1 year before the medicare drug benefit. Arch Intern Med 2006; 166: 1829–35.
3    Rochon PA, Anderson GM, Tu J V., et al. Age- and gender-related use of low-dose drug therapy: the need to manufacture low-dose therapy and evaluate the minimum effective dose. J Am Geriatr Soc 1999; 47: 954–9.
4    O’mahony D, O’sullivan D, Byrne S, O’connor MN, Ryan C, Gallagher P. STOPP/START criteria for potentially inappropriate prescribing in older people: version 2. Age Ageing 2015; 44: 213–8.

 

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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