エビデンスに基づいた「がん検診」


そのような視点で考えると、日本で行われている「がん検診」は、比較的世界で構築されてきたエビデンスに基づいたものになっています。

がん検診は、ほとんどの市町村で公費によって費用負担がされており、一部の自己負担で受けられるようになっています。お住まいの自治体からの手紙を見て定期的に受けている人も多いかもしれません。

国が推奨しているがん検診は、以下の5種類です(参考文献6)

参考文献6を参考に作成

この中で、現存のエビデンスと照らし合わせた時に、最も議論の余地が大きいのが肺がん検診でしょう。その理由は先に述べた通りで、胸部X線検査の有用性は否定的です。それ以外も細かな点は指摘できますが、科学的根拠に基づいて策定されたアメリカでのがん検診などと比較して、大きな差異があるわけではありません。

「いやいや、卵巣がん検診もやるべきじゃないか」「乳がん検診はもっと早くからやった方がいい」と言う人もいるかもしれません。しかし、今のところ、ここに記した種類以外のがんの検診や、推奨でない年齢での検診の益が、本当に害を上回るかはわかっていません。あるいは、害が益を上回るとわかっているものもあります。

また、ここに記載されないもののうち、人びとの「がんへの漠然とした不安」につけこんで、根拠なく「新しい検診だ」と主張をして、検診ビジネスが行われているケースもあります。繰り返しになりますが、本当にそれらの益が害を上回るという確証はなく、検査の大きな弊害が懸念されている事例も少なくありませんので、注意が必要です。

逆に、国から推奨されている検診の多くは、たくさんの国民が検診を受けることによってメリットを得られると考えられるものです(しつこいようですが、肺がん検診の例外を除き)。

一般健康診断とがん検診を組み合わせることで、少なくとも心臓・血管の病気やがんを悪化する前に見つけ、すぐに対処するのに役に立ちます。「予防医療」を考える上で欠かすことのできない軸の一つです。


前回記事「正常=健康とは限らない。健康診断で何がわかるの?【医師・山田悠史】」はこちら>>


参考文献
山田悠史. 【解説】あなたの「健康診断」は本当に必要ですか?. NewsPicks. https://newspicks.com/news/4153632 (accessed Jan 5, 2022).
1 労働安全衛生法(安衛法)|安全衛生情報センター. https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-1/hor1-1-1-m-0.htm (accessed July 14, 2019).
2 疫学情報センター :: 年報の追加資料. http://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/toukei/pertinent_material/ (accessed July 15, 2019).
3 Melamed MR. Lung cancer screening results in the National Cancer Institute New York study. Cancer 2000; 89: 2356–62.
4 Final Recommendation Statement: Lung Cancer: Screening - US Preventive Services Task Force. https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/RecommendationStatementFinal/lung-cancer-screening (accessed July 16, 2019).
5 Chou R, High Value Care Task Force of the American College of Physicians. Cardiac screening with electrocardiography, stress echocardiography, or myocardial perfusion imaging: advice for high-value care from the American College of Physicians. Ann Intern Med 2015; 162: 438–47.
6 厚生労働省. がん検診. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html (accessed Jan 8, 2022).

構成/中川明紀
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