日本はホスピスの数が米国の10分の1以下


また、患者さんだけでなく、日本の医療現場ももしかすると、準備が十分ではないのかもしれません。

厚生労働省の先ほどの調査(参考文献1)では、一般の人が末期がんと診断されたら、37.5%が病院で、10.7%が介護施設で、47.4%が自宅で最期を迎えたいと回答をしています。一方、一般の人で重い心臓病が進行したとしたら、48.0%が病院で、17.8%が介護施設で、29.3%が自宅で最期を迎えたいと回答しています。

この数字がそれぞれ多い、少ないということではなく、人はそれぞれ、安心できる場所が異なるのだと思います。病気になったら最期までずっと入院していなければいけないわけでもなく、最期の瞬間は自宅で迎えるべきなわけでもなく、人それぞれ安心できる場所を選べばよいのだと思います。

ただし、希望があっても、その希望を叶えられないケースがあるかもしれないというのは、医療現場が抱える課題です。

「ホスピス」という場所は、米国ではとてもありふれた選択肢となってきましたが、日本ではまだ十分に馴染みのある言葉ではないかもしれません。

ホスピスは、緩和ケアを専門にした医師、看護師などの医療チームが緩和に焦点を当てたケアを提供する場所です。人口3億人強の米国では、5000を超えるホスピスがあり、毎年150万人を超える人がホスピスを新たに利用します(参考文献2)。この数字は、あらゆる病気で亡くなる人全体の半数弱にあたります。

 

一方で、人口1億人強の日本には、ホスピスが全国で500未満しかなく、利用者数は年間5万人から6万人程度、またがん患者さんのみの利用に限られており、がん患者さんの中でも12.5%の利用にとどまります(参考文献3)

 

文化的背景が異なる二国間で比較をするのはフェアではないかもしれませんが、ホスピスが十分に日本で広がっていない現状は見てとれるのではないでしょうか。

また、米国では、ホームホスピスと呼ばれる仕組みもあります。自宅で最期を迎えたい人に対し、自宅にホスピスチームが足を運び、病院内のホスピスと同等の機能を自宅で備えるというものです。

こうしたホームホスピス自体は日本にはなく、各在宅診療医がそれぞれのスキルセットで対応をしています。もちろん、優れた緩和ケアを提供しているチームもありますが、その質が日本全国で一律担保されているとは言い難い現状があります。

このような現状は、人が最期の時を過ごす際の選択肢を限定している可能性があり、また、医療現場の側も準備ができていないと言えるのかもしれません。

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参考文献
1 人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書 平成 30 年 3 月 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会. .
2 Hospice Facts & Figures | NHPCO. https://www.nhpco.org/hospice-facts-figures/ (accessed Jan 26, 2022).
3 [特定非営利活動法人 日本ホスピス緩和ケア協会]. https://www.hpcj.org/ (accessed Jan 26, 2022).

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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